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2008年4月19日 (土)

活火山と化すチベット情勢 (上)

ついにチベット人の憤りが爆発したー。中国のチベット自治区等で中国の同化政策に対して抗議行動するチベット人僧侶・市民らと治安部隊の衝突は多数の犠牲者を出した。このチベット問題の背景について桐蔭横浜大学のペマ・ギャルポ教授に本紙山田恵久主幹が聞いた。ペマ教授は一九五三年、チベット・カム出身。中国軍の弾圧を受け、一九五九年四月にインドに亡命。六五年来日し、ダライ・ラマ法王アジア太平洋地区の初代代表を務めた。

山田 タシデレ(今日わ)、ご無沙汰しております。中国のチベット自治区のラサで、中国の弾圧に反撥するチベット仏教の僧侶や市民は、三月十四日から一、二万人に上る大規模な中国支配反対運動を行った。デモ隊は口々に「チベットに自由を」「チベット独立」等と叫んでいたという。それに対して、治安当局は装甲車など武装車輌を投入し、発砲等で多くの犠牲者を出した。
 香港紙「明報」が伝えたところによると、三月二十一日、ラサで開かれた治安会議に公安省、国家安全省、武装警察部隊の高官と共に、何と驚くことに、人民解放軍成都軍区の呂登明副司令官が出席していたという。騒乱鎮圧の指揮本部を軍に置き、軍が前面に出て最高レベルの警戒態勢をとっていたという。実際、同軍区の緊急展開師団も投入された。
 報道によると、三月十日、ジョカン寺周辺で僧侶十人がチベットの旗を振り、ビラを配りながら抗議デモを行っているところに、武装警察が殴り掛ってきて、実力で制圧したという。
 更に同日、デプン寺からジョカン寺まで約三百人の僧侶がデモ行進をしたが、間もなく武装警察に阻止され五十人以上が連行されたという。中には手首を切って自殺を図ったり、ハンガーストライキをして、中国による圧政に抗議。これに対して中国当局はラサにある有名なセラ寺など三大仏教寺院を封鎖した。
 翌日、六百人以上の僧侶や市民による抗議活動があり、武装警察が催涙弾を発射して制圧したという。
 十六日、甘粛省蘭州の西北民族大学では学生が数百人規模の追悼集会を、十七日には北京の中央民族大学でも集会を開いた。同日、成都の西南民族大学では座り込みデモがあったが、治安当局はこれらの大学を厳戒下に置いたという。
 続いて、十八日から二十三日に掛け、四川省アバ・チベット族チャン族自治州、甘孜チベット族自治州、甘粛省甘南チベット族自治州、青海省黄南チベット族自治州でもそれぞれ数百人規模のデモが行われ、警察官の発砲で多数の犠牲者が出たと言われている。

ペマ教授 大変、悲しいことだ。当初、中国政府はデモ隊側の死者は三人とし、殺傷力のある武器を使っていないと発表したが、インド北部のダラムサラにあるチベット亡命政府(リンポチェ主席大臣)は四月五日、中国治安当局の発砲により百五十人以上が殺害されたと発表している。その後、昔からチベット領土であった四川省、青海省、甘粛省などでも両者の衝突によって多数の犠牲者が出ている。多分、四百人以上が死傷しているのではないか。今、チベットの人々の安否が最も心配だ。

山田 この三省の中に計十一のチベット族自治州とチベット自治区があるが、これ等は本来、チベットの国土だった。
 侵略した上、今度は残虐行為を働く。国際世論は中国政府の無慈悲な対応を批判している。外国人記者の現地立入りを一切阻み、国営新華社通信の偽装された一方的なニュースのみが飛び交った。

ペマ教授 メディア・情報統制は完壁で中国政府の得意とするところだ。北京駐在の十五カ国の外交員にラサの実情を公開したが、それはずっと後の三月二十八日で、中国側の都合のいいところしか見せなかったようだ。

山田 厳重警戒の中、それでも僧侶等は直訴していた。治安当局は彼らを直ぐ逮捕してしまった。ラサ郊外を含め全てオープンにすべきだ。
 中国政府は米動画投稿サイトの「ユーチューブ」を中国内で利用出来ないよう、インターネット経由での接続を遮断した。
 中国以外でのユーチューブ・アクセスは司能で、「プロテスト・イン・ラサ2008」と題する動画には、射殺されたチベット人男性六名の姿が生々しく撮影されている。
 又、中国国内では米ネットのグーグルやヤフーのニュースサイトも閲覧が出来ない。以前からグーグルのサイトではネット検閲も実施され、検索キーワードに「チベット」「ダライ・ラマ」と入力すると何も表示されない。

ペマ教授 世界中で北京五輪開催の是非が問われている。

山田 北京五輪の聖火リレー走者を務めることになっていた元タイ国王の孫娘、ナリサラさんやインドサッカーチームの主将は「チベットの大義に連帯を示すため」として、走ることを辞退した。

ペマ教授 北京五輪ボイコットはハリウッドの俳優リチャード・ギアさん、ハリソン・フォードさん、ユマ・サーマンさんやスティーブン・セガールさんを始め、クシュネル仏外相はEU(欧州連合)に開会式欠席を呼び掛け、メルケル独首相、ブラウン英首相始めポーランド、チェコ、スロバキア、エストニア、ブラジルの七カ国首脳やチャールズ英皇太子は参加を見送った。

山田 サルコジ仏大統領も中国側がダライ・ラマ法王と対話しなければ欠席するようだ。ドイツは先に中国と取り決めた経済協力を凍結し、二月にメルケル首相も参加しないことを決めている。英国、チェコ、ポーランドはダライ・ラマ法王の招請や首相会見を検討している。
 又、胡錦濤に電話で「対話するように」と促したブッシュ米大統領は開会式には出席する予定だが、議会では出席を取り止めるべきとの声が挙がっている。出席は一九三六年にナチスによるベルリン五輪に参加したルーズベルト大統領の轍を踏むことになろう。ロハ、最近になって大統領報道官は「大統領はいつでも予定を変更司能」と述べている。
 ライス国務長官は中国にチベット政策の修正を求め、チベットに領事館の開設を求める方向で検討を始めると言っている。
 更に、ペロシ下院議長の提案で、米下院は四月九日、抗議するチベット人に対する弾圧を厳しく非難すると共に、中国政府とダライ・ラマ法王の対話や拘束されている僧侶の即時釈放を求める決議を賛成四一三対一の圧倒的多数で採択した。

ペマ教授 米下院のペロシ議長は米議員九人と其に三月二十一日、ダライ・ラマ法王にお会いになり、二十八日、中国政府を批判すると共に「国際オリンピック委員会が五輪開催地に北京を決めたのは間違いだった」と述べ、聖火がペロシ氏の地元サンフランシスコを通過する時、中国に対する抗議を容認すると表明した。

山田 国際オリンピック委員会は、中国の内政問題に関与しないとしていたが、事態が悪化して風向きが悪くなると遅ればせながら、「平和的解決を求める」と言い出した。
 四月八日、サンフランシスコでは地元中国人の約一万人と中国批判の市民約八千人の衝突が想定され、流血の事態を避ける為、聖火リレーのコースを全面的に変更せざるを得なくなった。

ペマ教授 「平和の祭典」オリンピックを台無しにしたのは、明らかに中国政府だ。
 四月六、七日の両日、ロンドンやパリでも、市民の妨害に遭い聖火は何度も立往生した。しかし、ダライ・ラマ法王は「いかなる妨害もすべきではない」、聖火リレーの阻止行動は「中国の人々にチベット人への憎悪を抱かせるだけで、無益なこと」と仰っている。

山田 盗っ人猛々しく、北京五輪組織委員会は我国に五輪聖火が妨害されないよう警備するよう強く注文をつけてきた。日本での聖火リレーは四月二十六日、長野の善光寺からスタートする。
 しかし、国連人権理事会では中国、ロシアの反対にあって、チベットの人権侵害間題について討議されなかった。国連の播基文事務総長は五輪開会式の出席を見送ったが、未だに弾圧等についてメツセージを出していない。
 又、日本の仏教界が黙って見ているのもおかしい。唯一、天台宗の書為山圓教寺の大樹玄承執事長が声明立を出してチベット擁護と中国批判を行っている。

ペマ教授 台湾の次期総統に選出された親中派と言われている馬英九氏でさえ、「弾圧を続けるなら、五輪に参加しないことも排除しない」と言っていた。

山田 日本では、福田総理は胡錦濤の来日を控えて、著しく慎重な構えで、「声高に(中国を)批判したり、北京五輪と関連付けることはどうか」「(双方の)対話が行われることを歓迎する」と言うだけで、非人道的な弾圧について直接言及しない。何しろ、福田首相は靖国神社参拝について「(中国など)相手の嫌がることを敢えてする必要はない」と言う親中姿勢を示す。これが我国のトップリーダーとは情ない。
 更に、中国は皇族のご出席を要請してきたが、ご出席はチベット弾圧を容認することになってしまう。政府は要請を受入れない方向で進めているというが、水面下でおかしな動きもあり予断を許さない。
 超党派の国会議員で構成する「チベット間題を考える議員連盟」(枝野衆院議員が日本とチベッ幸男代表)は、事態が悪化すれば「胡錦濤の訪日歓迎は出来ない状況になりかねない」などとした非難声明を出した。しかし、その総会に出席したのは自民、民主両党の僅か二十七議員だけだった。
 因みに「北京オリンピックを支援する議員の会」は会長河野洋平、会長代理に中川秀直と鳩山由紀夫、幹事長野田毅で総勢二百二十五名もいる。これら国会議員は未だに誰一人として中国を批判していない。
 最も危惧するのは、五月六日に来日する胡錦濤が国会で演説を行ったり、皇居で午餐会か晩餐会に出席したら、それこそ、畏多くも天皇陛下が中国の政治利用に悪用されかねないことだ。

ペマ教授 多くの国民、市民がチベットの置かれている状況を良く理解して頂き、味方になってくれることは、大変ありがたい。 (続く)


※「国民新聞」(2008年4月25日付)より転載

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