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2008年5月24日 (土)

対談 胡錦涛のチベットジェノサイド (下)

皇太子訪中を断固拒否しろ

ペマ 国連は一九五九年、六一年、六五年の三度、チベットにおける文化の破壊と中国軍の撤退を決議しています。その後、現在までに世界各国の議会でチベットに関する様々な決議が約五十もなされました。
 この四月九日にはアメリカ議会が、ブッシュ大統領の北京五輪欠席、ダライ・ラマ法王と中国との対話を促すこと、さらにはアメリカ政府に働きかけてラサに総領事館を設置するという重要な問題を決議しました。また、EUでは加盟国に対して開会式欠席を促す決議をしています。
 このように二〇〇八年現在までに、チベット問題に関する様々な決議がなされていますが、この中で最も重要なのは、アメリカ議会やニュージーランドなどがチベットを「占領下の国(country under occupation)」と位置づけた決議がなされているということです。これは、国交まではないものの、ほぼ亡命政府の正当性を認めていると言えます。

石平 論理的に考えれば、占領下であれば亡命政府が正当だということになりますね。

ペマ そうです。そして、今の中国による支配が不当であるということになります。

石平 世界の議会はそう見ています。

ペマ ですから、かつてのように世界各国が中国に遠慮するという時代は終わっていると思いますね。

石平 その通りです。かつては中国が振り上げた拳を下ろせるように、彼らのメンツがたつようにと世界各国は立ち回ってきました。しかし、特に重要なことですが、今回こそ世界中が毅然とした態度を取るべきです。中国国内の問題を解決するためにも、今回は中国政府にショックを与えなければならない。

もし、ここでまた世界が中国の顔色を窺って着地点を見つけ、彼らがこの困難を乗り越えたとしたら、中国政府は別の攻勢に出ます。中国は着地点を見つけてくれたことを、決して国際社会の好意とは受け取らない。自分たちの戦略が成功したと受け取ります。
天安門事件がまさに、そうでしたよね。あれだけの弾圧を行ったにもかかわらず、国際社会、中でも日本は、江沢民に救いの手をさしのべました。

ペマ 天皇陛下が訪中されましたね。

編集部 当時の外相銭其深の回想録にハッキリ「天皇訪中を利用した」と書いてあります。

石平 そうです。当時の宮澤政権は天皇陛下まで利用して、中国を世界中の非難から救ったのです。結果、中国は自分たちが行った鎮圧が正しかったと思っている。
利用された日本は馬鹿としか言いようがなく、天皇陛下訪中は宮澤政権の一番の罪です。今回、胡錦濤の要求に従って、もし福田総理が皇太子殿下の北京五輪出席を決めれば、万死に値すると言わざるを得ない。売国政権そのものだと言えます。
幸い産経新聞の報道によれば、皇太子殿下の五輪出席は取りやめになったとのことですが、他の各紙の報道がないのでまだ安心できません。もし、ここで北京五輪に皇太子殿下が出席されれば、天安門事件での失策の轍を再度踏むことになる。

ペマ 世界の笑い者になりますからね。

石平 それで日本の皇室は傷つくことになるのです。

ペマ 日本が皇太子殿下の出席を決めれば、数百人のチベット人が殺され、数千人のチベット人が拘束されていることを容認することになります。ウイグルで武器を隠し持っていたと拘束し、弾圧していることも容認することになる。どんなことがあろうと、日本は皇太子殿下の出席はやめるべきだと思います。

石平 そうです。中国に救いの手をさしのべれば、彼らの成功体験を増やすことにしかなりません。つまり、強硬策をとれば国際社会においても何でも通るということになる。そうなると、中国国内は永遠に変わることはありませ.ん。中国の暴走は止まらなくなり、ウイグル、尖閣問題、台湾、沖縄、日本とゴリ押しで侵攻してくることになる。日本も他人事ではない。だからこそ、国際社会が毅然とした態度をとることが重要なのです。

ペマ 今、石さんが一言われたようなことを日本で言うと、すぐ右翼だ、右翼に利用されていると言われる(笑)。
日本に言っておきたいのは、かつてチベットが安易に中国に入り込まれるような環境だったのは事実だということです。例えば、各国に入り込まれて英国派や中国派などと派閥ができ、分断された。また、改革をしようとするチベット人をチベッ÷政府自らが追放したりもしました。

石平 中国共産党支配下に入ることを望んだチベット人もいたということですか?

ペマ チベットでも、もうこの時代のことを知っている人は少ないですが、中国共産党の手引きをした人がいたということです。ただし、手引きをした人はここまで自治がなくなるとは思っていなかったので、話が違うと意見した。それで、実際に中国の支配下に置かれると、再教育のために刑務所に入れられました。

石平 それが中国のやり方です。もし、日本が中国の支配下に入ったら、一番先に解体されるのは朝日新聞ですね(笑)。

ペマ 中国は利用価値がなくなったら、すぐに捨てます。このようなことを日本はチベットから学んで欲しい。
すべての人には自分の国を守る権利と義務があります。逆に言えば、世界各国が自国の領土を少しでも広げようと思うことは当たり前です。攻撃は最大の防御だという言葉もありますよね。
ですから日本は、他国が領土を広げようとするのを阻止する、自国を守るということを真剣に考えなければならないのです。どうもこの国はその概念が欠けていると思います。

五輪後に政争が始まる

石平 五月には胡錦濤国家主席の来日が予定されていますが、彼こそが今、「訪日を決めるんじゃなかった」と苦慮していると思います。いくらKYといっても、日本国民に歓迎される雰囲気でないことくらいはわかるでしょう。
毒鮫子問題は解決していない、チベット問題も出てきた、東シナ海問題は何も進展していない。今、来日しても、何もすることがないわけです。胡錦濤が何か目的があって来日するとすれば、それは皇太子殿下の五輪出席を決めることだけです。

ペマ しかし、日本は中国のチベット弾圧についての意識が低いので気がかりです。例えば、一九九七年のオーストラリア議会は、アメリカ同様にオーストラリアも大使クラス、日本で言うところの次官補くらいの地位の方がチベット問題を担当すると決議しています。しかし、日本の場合は担当するどころか、係官もいません。一応、チベットは中国課が担当していることになっていますが、中国課にはチベットのことを知っている人は一人もいない。

石平 それはひどい。ところで、アメリカ議会はブッシュ大統領の五輪欠席を促すことを決議したという話は先ほど出ましたが、ブッシュ大統領はどう考えているのでしょうね。

ペマ ブッシュ大統領は五輪に出席したとしても、チベット問題については、何か発言するでしょうね。欠席したとすれば、それはそれでメッセージになります。
北京政府としては今、ブッシュ大統領に出席してほしいのと、出席してほしくないのと半々くらいの気持ちなのではないでしょうか。出席して、チベット問題に関する何か意思表示をされると困ったことになるからです。
特にブッシュ大統領は任期満了まであとわずかですよね。そうすると、ここで何か自分の「レガシー」(遺産)を残したいと考えているはずです。彼は大統領就任当時、中国に対して強硬策を取っていましたから、もう一度、自分の立ち位置に戻りたいという気持ちがあるでしょう。チベット問題で花道を飾ろうと考えてもおかしくありません。

石平 今、胡錦濤は「北京五輪をやるんじゃなかった」と後悔しているでしょうね。

ペマ 江沢民が復活を目論んでいるかもしれない。彼がチベット問題と北京五輪に対して何か発言し、胡錦濤に自己批判を要求する可能性もあります。
今までの中国のやり方でチベット問題を収束させるとすれば、チベット自治区の第一書記をクビにして、一人の行き過ぎがあったと発信することでしょうね。それが、今まで中国がやってきた「振り上げた拳を下ろす」一つの方法です。

石平 自分で下ろさせるのですから、国際社会がお膳立てするよりはいい。

ペマ そして、チベット自治区第」書記をクビにすれば、次は彼を任命した人が責任追及をされることになります。それでおそらく、一件落着。
もう一つ、北京五輪の責任者である習近平国家副主席を追及するという方法もあるでしょう。習氏が「よってたかって北京五輪をめちゃくちゃにした」と声を上げるのが早いか、逆に攻撃されるのが早いか、その戦いになると思います。

石平 習氏が先に攻撃しなければ危ないですね。彼は先の党大会で常務委員になったので、胡錦濤の次のポジションにいます。ですから、北京五輪は手柄を立てるチャンスでもありますが、失敗すれば失脚する。
そうなると、そこから権力闘争のドラマが始まることになります。

ペマ そうですね。ですからおそらく、連休が終わった頃に、ラサで起こったことについて党内の責任追及をし、八月までにどうするかということが決まってくると思います。

石平 五輪までは混乱を避けるために我慢すると思いますが、五輪後、権力闘争に発展するでしょうね。しかし、その前にバブルが弾ける可能性もある。中国はチベット問題をはじめとする大きな曲がり角にあるということです。 (了)

※ 『WiLL』(2008年6月号)

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