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2008年5月23日 (金)

対談 胡錦涛のチベットジェノサイド (中)

まだ洗脳されている中国人

石平 今、世界中から非難を浴びている中で中国政府は何を始めたか。国内で、西側のメディアが悪いというキャンペーンを始めました。つまり、西側のメディアが嘘の情報で世論を煽っている、というキャンペーンです。同時に、ナショナリズムを煽っています。

ペマ 中国は常に、あらゆるチャンスを利用しますからね。最初にチベットに侵攻した時も、「帝国主義からチベットを守る」というのが大義名分でした。当時、チベットには外国人もいない状況でしたから、何が帝国主義かという話ですが、中国は常に仮想敵を作り出します。それで中国人民を騙してきました。
 しかし、これからはそんなことで中国人民を騙すことはできないと思います。中国の若い人は海外で勉強していますし、どんなに情報を封鎖してもインターネットで海外ニュースを見ることができる。今や、中国や北朝鮮の人民でも政府発表を一〇〇パーセント鵜呑みにすることはないのではありませんか?

石平 いや、私はそうは思わないですね。確かに、ペマさんが言われたように情報化の時代になって、政府が惰報を完全にコントロールすることはできなくなった。しかし、それでも中国人が中国政府を信じ込んでいるということが、サンフランシスコの聖火リレーを見ただけでもよくわかります。
 サンフランシスコでは聖火のルートを変更しました。もし、ルート変更をしなければ、アメリカ在住の中国系住民と、チベット弾圧に抗議する人たちとが正面衝突したと思われます。ルート変更してもなお、抗議団体に対して「中国は悪くない」と声を張り上げている中国系住民が多数いて、小競り合いになっていましたからね。
 アメリカ在住の中国系住民は、情報をコントロールされているわけではありません。にもかかわらず中国政府は正しいと本心から信じて言い張る。これは、情報の質や量の問題ではなく、根本から中華思想を植え付けられていることによると言えます。
 ですから、彼ら中国人はアメリカでどんなに民主主義を学ぼうとも、情報を"浴びるように〃得ようとも、チベット問題を「漢民族に逆らったチベット人に対する制裁だから何もおかしなことではない」という中華思想の構図でしか考えられないのです。私が、中華思想は「オウム真理教」であると言うゆえんです。

ペマ なるほど。

石平 アメリカに住んでいる中国系の人たちでもそのような状態ですから、中国国内の人民に期待できるはずもありませんよ。中国のインターネットの掲示板でチベット問題に関する書き込みを見ると、私は絶望感を覚えます。中国のエリートと思われる若者たちが、圧倒的に中国政府を支持し、西側批判をしています。

編集部 結果、各地でカルフールなどへの大規模なデモが起こってますね。

石平 ペマさんが中国は変わるとおっしゃるのに私が反論するのは、そういうものを見ているからでもあります。

ペマ 私はちょっと期待しすぎていたかもしれませんね。外に出て、自由の空気を吸った人たちが国に戻るのだから、中国もやがて変わるだろうと思っていましたが、中華思想とは恐ろしい。 
 しかし、私は中国も少しずつは変わっていくだろうと思っています。

石平 変わったといえば、私は中国共産党の支配力が落ちたと感じますね。政府はチベットを鎮圧したと判断したので、ラサに外国人記者を入れましたよね。私たちも子どもの頃に呼び出されて演技したのでよく知っていますが、あの外国人記者が呼ばれた区域は全部作り物です。事前に準備して、大きな映画のセットが組まれているようなものだと思ってもらえばわかりやすい。
 外国人に見せたくない部分は、そのように周到に準備して自国に都合のよい芝居を演じるのが常ですが、今回はそのような中であっても、チベットの僧侶がいきなり何十人か出てきて本当のことを話し出した。以前なら考えられません。
 死をも恐れない若いチベット人がいるということには感心しましたが、中国共産党のシナリオ通り、思う通りにはならない現状が読み取れます。ボロが出た。

ペマ 以前、アメリカの国防長官がチベットを訪れた時、ある高官がある場所に忘れ物をしたことに気づいて取りに戻ったら、ステージが全て変わっていたと言っていました(笑)。つまり、チベットは果物が豊富で、豊かだという演出や、宗教の自由があるとお坊さんやおばあちゃんが好き勝手に歩くという演出が施されていたのですが、それが消え失せていたと。中国は一つの街そのものを舞台化することに長けています。

石平 北朝鮮よりは技術力がありますよね(笑)。

ペマ 中国のほうが大先輩ですからね。

石平 私は駆り出されていた子どもですから、中国の周到な準備についてはよく知っていますが、それでも今回はボロが出たということは大きいと思います。

日本の”人権派”はダンマリ

ペマ 中国はすでに次の情報戦に出ています。ダライ・ラマ法王が「平和的に解決しよう」と言っているのに、過激なことをするのはよくないという世論を作り出そうとしている。
 日本でも中国に抗議する人たちに対して、「法王の意思に反する」というようなことを言い始めている人たちがいますが、彼らは本当に人権派なのか、それとも中国政府の差し金であるか、見極める必要があります。

石平 それにしても、日本でふだん「人権」「民主主義」を声高に叫んでいる人たちの大半が、チベット問題について沈黙しているのはおかしいすよね。辻元清美議員や福島みずほ社民党党首、大江健三郎氏は、何をしているのか。チベットの問題は、人権などという生ぬるい話ではなく、人が殺されているのですよ。

ペマ まったく不思議な人たちですね。

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石平 「人権擁護法案」を提出している議員たちは、北京に行って法案を出せばいい。

ペマ 同感です(笑)。

石平 今回、中国の弾圧によってチベットではたくさんの死者が出たので悲劇ですが、救われることが一つあります。北京五輪の年にチベット問題が勃発したことで、世界中の関心がチベットに向きました。ですから、中国政府は絶対にこの問題を避けては通れないということです。
 新しい時代が始まる一つの予感のようなものを感じます。

ペマ 私もそう思います。一つは、中国そのものがこれ以上、無計画ではいられないということです。すでに中国は共産主義国家といっても、カネさえあれば何でもできる国で、無法地帯化しています。このままいけば、国がバラバラになることは明白です。
 現在の中国は清朝末期よりもひどい状況だと言えます。清朝末期は外国の勢力が入ってきたために混沌とし、国内であっても移動のために高いカネを払わなければならない状況でした。今の中国でも共産党幹部の子女でさえ、外国の大資本の飼い犬のようになっています。
 政府の統制が効かない状況ではありますが、だからといって文化大革命のように鎮圧を図ろうとしても今の時代、そんなことができるはずがありません。そういう意味で、ダライ・ラマ法王がおっしゃっているように、チベット問題のみならず、中国そのものがどうやって法治国家に変わることができるかが今、問われていると思います。
 今まで、中国は革命を起こしてなんとか体制を維持してきましたが、今後はどうやって変化するかを考えることが指導者たちの課題だと思います。今は目の上のたんこぶのような存在かもしれませんが、ダライ・ラマ法王の言われていることによく耳を傾ければ、中国人民全体の利益になるような提案が盛り込まれていることがわかるでしょう。

石平 そうそう、変わらないともうどうにもおさまりませんよ。

「力による支配」は通じない

ペマ 中華人民共和国という国は、血を流して成り立ってきた国です。しかし、そろそろ国民の意思を問う体制を作る時期が来ている。共産党と国民党の戦いにしても、あれは単なる権力闘争であって、国民の意思から発したものではないですからね。
 国民の意思が反映される政府を作らなければ、諸外国から見ても、国内から見ても、政府の正当性がないとされ、国を治める持久力もなくなってくると思います。

石平 全く同感です。チベット問題は中国の激動の時代、変化の時代の象徴だと思います。ちょうど今年に集中して、中国が抱える様々な問題が限界に達しました。
 チベット問題では高圧的な民族政策、武力制圧をはじめとする中華思想的な「力による支配」は、国内だけではなく、国際社会に通じないことが明らかになりました。
 また、中国政府がチベットに対して今回、これだけの強硬策を取っていることから考えると、チベットから飛び火して国内に火がつくことを恐れていることがわかります。
 今、中国の経済も社会も限界の状況に達しています。ですから今年、確実にバブル崩壊が起こる。五輪以前か以後かはわかりませんが、株と不動産は弾ける。それから輸出は頭打ち状態です。得意先はアメリカでしたが、アメリカ経済がサブプライムローン問題で駄目になってしまった。そのうえ人民元が上がったため、輸出産業には大打撃です。
 加えて経済成長に伴って広がった貧富の格差という大問題もあります。
 チベット弾圧で世界中を敵に回し、毒鮫子事件でも日本に対して高圧的な態度に出て謝罪もせず、日本国民からの反感を買っていますが、なぜ中国がこんな事態に陥っているか。それは今、胡錦濤をはじめとする中国政府には政治的な余裕がないからです。中国こそが追いつめられている。

ペマ 今、中国の抱えている問題は大きいですからね。

石平 そもそも、チベット問題と国内問題は歴史的に見ても繋がっているのです。一九八九年に胡錦濤がチベットを弾圧した三カ月後、天安門事件が起こっています。それから今年で十九年目になりますね。
 今年もチベットから中国に内在する問題が噴出し、国内へと広がることは必至でしょう。先ほど、バブルが弾けると言いましたが、経済が少しでも失速すると中国国内に鬱屈した不満は大爆発を起こすことになる。
 だからこそ、中国共産党が今年、どう舵を切るかが問われているし、今が今後を占う転換期であると言えます。

ペマ ダライ・ラマ法王は中国政府がチベットを支配することに正当性がないとおっしゃっています。なぜなら、中国が軍事的にチベットを侵略したからです。しかし法王は、「中国のお手伝いをする」ともおっしゃっています。「お手伝いする」というのは、次のような意味です。
「チベットの人たちは自由意思、民族自決権によって、中国の一部になることを選んでもいいし、中国から離れてもいい。しかし、私は防衛と外交を除く高度な政治的自由があれば、中国の一部でいい」こ
 のような考えで、法王はむしろ中国の手伝いをするとおっしゃっているのです。
 チベットだけではなく、ウイグルもモンゴルも武力で侵略されたのですから、彼らも中国による支配に正当性はないと思っているでしょう。
 そもそも一九二五年頃の中国共産党の綱領では、民族自決権が記されています。コミンテルンの考え方にもそういうものがあるのですから、法王は中国共産党の救済にもなるような提案をしておられると思います。

石平 ダライ・ラマ法王は中国にヒントを与えてますね。 (続く)

※ 『WiLL』(2008年6月号)

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