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2008年5月28日 (水)

人権と民族自決権 (上)

戦後、「世界人権宣言」の採択とその普及により、世界中の人々が”人権"という概念を共通認識として分かち合えるようになってきています。しかも、言論、思想、表現などの自由は特定の階層や民族だけに限定したものではなく、人類共通の普遍的な価値として重んずるようになっています。

また文化的歴史的に共通なものを有し、共通の夢を持っている人間の集団、即ち「民族」にもその自決権を認める方向で進んでいます。二度の世界大戦を経て国連が創設された時は五十一カ国でしたが、わずか六十年でその数が約四倍の百九十ふくニカ国に膨らんでいます。これは民族自決権による植民地からの解放に伴い、多くのアジア、アフリカの国々が独立したからです。

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そうした中で、未だに人権に対し抑圧的で、民族自決権という言葉にアレルギーを示し、そのような言葉を口にする者を分離主義者として逮捕投獄する国があります。その一つが中国です。

三月にチペット全土で起きた(甘粛省、四川省、雲南省なども含む)抗議行動とそれに対する中国当局の弾圧が一例です。中国当局によると十九名、チベット亡命政府の発表では百四十名強が命を失いました。もちろん中国は、中国側の犠牲者の数を強調しているのであって、公安当局によって殺されたチベット人は数の対象にすらはいっていません。

今回の三月十日に端を発したチベットの僧侶などによるデモは、①一九五九年以来の軍事力を背景とした中国の悪政、②経済的に搾取している現状、③中国から多くの人を移住させてチベットの文化を失わせ中国に同化させる政策、などへの反対、また昨年ダライ・ラマ法王の米国議会最高栄誉賞受賞を祝賀しようとして逮捕された僧侶たちの釈放要求、そして北京オリンピックを政治利用してチベットが中国の一部だとする既成事実を作り上げようとしていることなどに対する強い不満を示すためでした。

詳細は日本の報道各社が積極的に報じて下さいましたので重複は避けますが、当事者でチベット問題の最高の権威であるダライ・ラマ法王が四月十日アメリカ訪問途中に成田空港に立ち寄り、マスコミ関係者と四十数分間記者会見を行いました。百二十名前後のメディア関係者が押し寄せる中、法王は改めて「中国によるオリンピック開催に反対しておらず、むしろ支持をしている」と強調なさいました。また「聖火ランナーへの妨害的な行為も支持していないし、そのような妨害はしないように呼び掛けている」とおっしゃったのです。

これを受けて、日本国内でも「法王が中国のオリンピック主催を支持しているのだから妨害行為をしてはならない」と意見を述べた人がいましたが、私は法王のお言葉の真意は「中国に対し、オリンピックを開催できるような常識的な国家になって欲しい、中国が世界に誇れるような民主主義と人権を尊重するような国になって欲しい」という願いが込められているように思いました。

また法王は頭の両脇に人差し指で角を表すような仕草をされ、「私が鬼に見えますか?私が鬼かどうかは皆さんがわかると思います。しかし中国政府は私が鬼であり、今回の一連の抗議行動を後ろで糸を引いていると個人攻撃をしています。これは事実無根です。中国の方々や第三者の機関がダラムサラも含めて調査していただければわかることです」とおっしゃり、「中国の指導者たちは現実を見て問題解決に努めるべきです。今のような、民衆の不満を力で抑え、暴力的に問題に対処することは時代遅れです」と、法王にしては珍しく強い口調で中国を批判されました。

中国のあまりにもでたらめな時代遅れの、人格抹殺を計った共産党特有のキャンペーンに対して、うんざりなさっておられる法王の気持ちはよく理解できました。 (続く)

※ 『向上』(2008年6月号)より転載

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