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2008年5月22日 (木)

対談 胡錦涛のチベットジェノサイド(上)

ペマ・ギャルポ ×石平 (評論家)

北京五輪はすでに失敗

石平 中国のチベット弾圧について、世界中から続々と非難の声が上がっていますね。聖火も各地で散々な目にあっている。

ペマ・ギャルポ(以下、ペマ) 今回の件については、中国政府は失敗を重ねているということが一つ言えると思います。中国は国内だけではなく、国外でまで、「力による解決」を行おうとしていますが、これが世界で受け入れられるはずがありません。
 例えば、イギリスで聖火リレーに対するデモが起こった時には中国大使館がイギリスの治安当局よりも出過ぎたために、民衆の反感を買いました。聖火リレー選手に併走する中国政府から送り込まれたブルーのジャージを着た人物たちと、もみ合いになりましたからね。チャールズ皇太子も北京五輪の開会式の欠席を決めています。Img017_2
 パリでの聖火リレーでも、同じくブルーのジャージを着た中国関係者が併走し、パリの公安当局も不快惑を表しています。
 四月十日に成田でダライ・ラマ法王の記者会見がありました。そこで法王ははっきりと、「中国政府の暴力は時代遅れだ。民衆を抑圧して物事を解決する時代ではない。民主的にオープンにしなければならない。今の時代に国家機密というものがあるのもおかしい」とおっしゃいました。
 ダライ・ラマ法王の言葉の意味は、中国の今のやり方がかえって問題を大きくしているということではないでしょうか。

石平 あの聖火リレーで併走する中国関係者については、日本の公安も必要ない、主権侵害だと断っていますね。

ペマ 今のままだと北京五輪の開会式は独裁国家だけで行うことになるのではないか。そうなると、世界がもう一度、民主主義国家と非民主主義国家にはっきりとわかれることになるでしょう。
 法王はお坊さんですので挑発的なことはおっしゃいませんが、四月十日の会見でメディアから「日本と日本政府に何かおっしゃりたいことはありませんか」という質問を受け、「私はロシアのプーチン大統領をはじめ、貴国の首相も含めて、世界の指導者たちにアピールの手紙を送りました」とおっしゃった。
 プーチン大統領は中国側に立つということを明確にしていますし、それ以外の国々も何らかの反応を示しています。しかし、日本の福田総理だけが何も言っていない。ですから、この法王の発言は、日本人に対する法王流のメッセージだと思います。
 今、世界ではチベット問題だけではなく、1OCそのものの責任を追及する動きが出ています。中国が五輪開催地に立候補した二〇〇一年当時、北京市長は「北京市の発展だけではなく、中国の飛躍的な発展と民主化を世界に示す」という約束をしました。
 そういう意味では、今回の北京五輪はすでにその約束を反故にしています。ですから、北京五輪はすでに失敗だと考えるべきですね。

石平 チベット問題では、胡錦濤がすでに袋小路に入っていますね。中国政府の打つ手は、すべて裏目に出ている。最大の失敗は、チベット暴動の黒幕を最初からダライ・ラマ法王だと決めつけたことです。ダライ・ラマ法王を「悪魔」とまで言いました。そう言ってしまった以上、もはや中国がダライ・ラマ法王と対話することはできません。対話の余地を中国自らが断ってしまったわけです。Img018_2
 なぜ、このような大失敗を犯したのか。ここ数年の経済発展で、中国の論理が世界に通用すると過信したのだと思います。自分たちの力を誇示し、それを押しつけ、従わせるという中国国内でのやり方を、そのまま世界が受け入れると勘違いしたのでしょう。それがすべて裏目に出ました。
 現在、各国の首脳が中国に求めているのは、ダライ・ラマ法王との対話です。これはどこからどう見ても正論ですから、対話しなければ何も始まらない。諸外国は、チベットの独立を求めているのではないのです。ですが、中国は「悪魔」と対話するわけにいかないという状況に自らを追いつめた。

ペマ ダライ・ラマ法王ご自身も「独立を求めているわけではない」とおっしゃっています。

石平 もう一つ、中国政府は世界世論をコントロールできると思っていたことが間違いの元でした。世論を完全に読み違えた。
 確かに、中国市場は力を持っています。中国の市場があるからこそ、現在のような生ぬるい反応ですんでいるとも言える。しかし、一般市民は中国から直接に利益を供与されたわけではないから、中国政府に何の遠慮もいりません。その上、西側諸国は人権意識が高いので、中国であろうとどこの国であろうと人権蹂躙に対しては抗議の声を上げる。
 これを中国は予想できなかった。今、世界中で一番、KY(空気が読めない)なのは、中国だと思います。

ペマ 確かにそうですね(笑)。

石平 裏目に出た結果、世界中に中国をアピールするチャンスだった聖火リレーは、隠れながらやらなければならなくなった。今や、泥棒のようにコソコソと行っています。
 今、中国は「しまった」と思っているでしょう。しかし、日本に対する靖国問題でもそうでしたが、強硬姿勢に出て拳を上げると、「しまった」と思っても下ろすことができないのが中国の中国たる所以です。今、いちばんまずい立場に立たされているは、胡錦濤国家主席だと思いますね。

ペマ 例えば、サンフランシスコで実際にトーチを持って走った聖火ランナーは、腕にチベットの国旗をつけていましたね。すでに五輪を盛り上げる側、聖火ランナーにまで、中国を非難する声は広がっているのです。
 ですから中国政府が、聖火ランナーを倉庫に逃げ込ませようとも、世界中の非難から逃げることはできません。ここまで来たら、中国政府は現実を見るしかありませんね。

石平 KYのままでは現状打破はできない。

「人民戦争」命令が出た

ペマ 中国の最初の対応についてですが、チベット自治区第一書記である張慶寧は第一声として、「これは人民戦争だ」と言いました。人民戦争と言ってしまうと、これは「チベット人は、全員殺戮しろ」と言っているのと同じです。おそらく、この言葉で中国の警察や公安関係者は、チベット人を殺してもよいと判断したと思います。

石平 「人民戦争」は毛沢東時代の言葉で、「無差別殺人」命令ということです。犯罪であれば警察が捕まえますが、「人民戦争」であれば、全国民が参加する戦争ということになる。つまり、漢民族とチベット人を戦わせることを意味する言葉です。

ペマ チベット自治区第一書記がそこまで計算していたのか、全く計算していなかったのかわかりませんが、彼の言葉によって武装した中国人たちは、上から命令が出ているのだから誰を撃っても問題ないと思ったはずです。

石平 人民戦争と言えば、これは法律を超えたものですからね。日本流に言えば、超法規的ということです。だから誰を殺してもよいことになっている。
 また、例の党書記はダライ・ラマ法王を指して「人の皮を被ったオオカミ」とまで言いました。ここから察するに、彼は上に対して状況を過大に報告した可能性があります。自分が力不足なのではなく、チベット側の陰謀が甚だしいためにこのような事態になっている、と報告したとも考えられる。つまり、白分が責任逃れをするために、です。

ペマ おそらく一九八九年のチベット動乱で、胡錦濤国家主席がチベットの第一書記の時に成果を上げた、というのが頭にあるのでしょうね。中国政府から見れば成果であっても、誰の目から見てもチベット人弾圧、虐殺行為なのですが。

石平 胡錦濤はチベットを弾圧してその後、出世しましたからね。今度は俺の番だチャンス到来とでも思ったのかもしれない。

ペマ 成田の会見でダライ・ラマ法王は、中国当局によって殺害されたチベット人は数百人、拘束されている人数は数千人だと言われた。そして、「もし、ラサの中国当局が言うように、この混乱に乗じて強奪などの犯罪を犯すものがいれば、法律に則って処罰すべきだ。しかし、そうでない政治的な活動によって拘束された者については、思想の自由があるのだから、政治犯として対応して欲しい」ということを強くおっしゃった。

石平 中国の言っていることは矛盾しています。一方では犯罪があるから取り締まっていると言い、一方で人民戦争だと言う。これは全くの矛盾です。中国政府、胡錦濤自身が今、自らが何をしているのかわかっているのかどうかも怪しい。

ペマ 状況は悪くなるばかりですからね。 (続く)

※ 『WiLL』(2008年6月号)より転載

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