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2009年3月29日 (日)

中国建国60年目、天安門20年目の憂鬱 対談 石平×ペマ・ギャルポ (1)

石平(以下、石) 今年は中華人民共和国創立六十周年、ダライ・ラマ法王が亡命してから五十年(チベット動乱五十周年)、そして天安門事件二十周年という節目の年です。そんな中で今、中国では大きな地殻変動が起こりつつあります。天安門事件二十周年の意味とは何か。この二十年問、一応、中国は安定して繁栄してきたように見えます。天安門事件で民衆を弾圧し、鄧小平が「南巡講話」を行ったからです。「南巡講話」の主旨は簡単に言えば、市場経済の導入による経済発展ですが、あれは鄧小平が中国の人民に持ちかけた「悪魔の契約」でした。Ph02_3

 では「悪魔の契約」とは何か。それは天安門事件は忘れろ、中国共産党の一党独裁を認めろ、その代わりに市場経済を導入して儲かるチャンスを与えてやる、ということです。この契約が成立したおかげで、中国共産党は安泰、エリートは金儲けに走るという二十年間を送ってきたわけです。しかし、去年からまさにこの「悪魔の契約」の前提が破綻しました。鄧小平の契約の前提は、「経済は永遠に成長する」というもので、しかも「急成長でなければならない」というものでしたが、これが見事に破綻した。

ペマ・ギャルポ(以下、ペマ) 去年の年末に崩れましたね。

石 二〇〇七年の中国の経済成長率は一三パーセントで、前例がないほどの高い成長率でした。しかし、二〇〇八年の十月から十二月の経済成長率は、六・八パーセント。つまり、最高に達した二〇〇七年の約半分に落ち込んだのです。これはすでに経済はハードランディングしてしまったということを意味している。
 中国はこんなことを経験したことがありませんから、歴史的転換期ですよ。

ペマ そうですね。

石 今の中国は毎年、八パーセントの経済成長率を死守しなければ国が立ちゆかなくなることは明らかです。しかし、中国共産党中央政策研究室の副主任である鄭新立は、「今年、輸出が一〇パーセント以上の伸び率でなければ、八パーセントの経済成長率は見込めない」と言っている。そこで、二〇〇八年十二月の輸出の伸び率を見てみると、マイナスニ・八パーセントです。ここから一〇パーセントの伸び率に転じるのは、まず不可能でしょう。つまり、今年も「急成長」することは、もはやできない。

ペマ 大変なことが起こりますよね。

石 何千万人もの出稼ぎ労働者が職を失う。消費意欲が落ち込み、生産が落ち込む。悪循環に入りますよ。ここから中国共産党のドラマが始まります。中国共産党は六十年間、例えば江沢民の時代は愛国主義、この二十年問は経済成長と、いろんな手を使って一党独裁を守ってきました。しかし、もはや打つ手がない。

ペマ そう。

石 今年の旧正月、温家宝と胡錦濤がどういうパフォーマンスを行ったかを見ても、それは明らかです。温家宝は農村の民家に行って、農民のためにエプロンをかけて「回鍋肉」を作ったんですよ。一応言っておきますが、温家宝は中国の首相です。一方、胡錦濤は農村に行って、「かつての革命拠点の生活レベルを上げるために地域の発展を支援することに尽力する」と話しながら、一所懸命に台所で栗を妙めた! つまり、ここまで農民に媚を売って庶民派をアピールし、人気取りをしなければならない状況だということです。毛沢東に言わせれば、「俺の作った中国共産党はもう終わりだ」ということになる(笑)。

ペマ 公安大臣からは警察に対して、多少民衆がデモを行ったりしても鎮圧しないようにというお達しが出ましたね。要するに、それが大きくなることを怖がっているんですよ。

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石 そう、怖がっている。温家宝と胡錦濤の旧正月のパフォーマンスが象徴しているのは、政権が維持できないほど弱くなったということです。中国の指導者は、もはや正月を家では過ごせない(笑)。
 そして、中国共産党の一党独裁を批判し、連邦制による民主主義国家の樹立を主張した「○八憲章」が発表されました。具体的経緯は横に置いておいて、全体の流れの中で見ると「○八憲章」が出たという意味は大きい。
 それからしばらくして、知識人たちが中国中央電視台のテレビ放送をデタラメの番組ばかりだと言ってボイコットする運動がありました。私は日本であんなものはデタラメだと書ってきましたが、中国国内でそれを言うとはすごいことです。
 そして、四川大地震で亡くなった子供たちの親が、政府から不当な抑圧を受けたとインターネットで発信していますし、地方役人は汚職をしているとインターネットで叩かれて、すぐに解任されています。インターネットの力がすごく大きくなってるんですよ。ペマそうですね。石今までの中国共産党の統治下では考えられないことが、去年から次々と起こっているのです。これは、中国共産党が市場経済を導入しながら、いまだに清王朝と同じような政治体制を敷いているからです。あるいは、帝国主義的な政治体制と言ってもいい。この矛盾はそろそろ限界に来ています。

(続く)

石平(せきへい) 1962年中国生まれ。北京大学卒業後、88年留学のために来日。神戸大学文化学研究科博士課程修了後、民間研究機関に勤務。現在は日中関係・中国問題を中心に評論活動を展開。近著に『日中の宿命』(扶桑社)、『私は「毛主席の小戦士」だった』(飛鳥新社)などがある。
※『WiLL』(2009年5月号)より転載。

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