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2009年4月

2009年4月30日 (木)

「人財」不足をどう補うか (下)

 私はロッキード、リクルートという大きな不祥事が起きるたび、日本にとって必要な人材を少しずつ失ってきたように思います。大変寂しい思いがします。私達は正義を重んじ、正義を行うことが大切ですが、安っぽい正義感を貫くことで、大きな損失と痛手を受けることがあることも、これらの事件を通して学ぶべきという気がします。 

 お釈迦様はかつて「私の言葉だからと言って鵜呑みにすべきではない。それが真実であるかどうかを慎重に吟味する必要がある。もしそれが真実であっても、その時その場においてそれが有効であるかどうかをきちんと見極めることが大切である」という教えを残しています。

 最近、私は何十年かぶりにチベット医学のお医者さんに掛かる貴重な機会があったので、ぜひとも記憶力を強化できる薬が欲しいとリクエストしました。女性の医師は私に朝昼晩と三種類の異なる薬を処方してくれました。その中には記憶を良くする成分も含まれているはずでしたが、その女性の医師は「薬の成分そのものが記憶を良くするというよりも、あなたがその薬を信じることと、それによって自分は良くなるという意識と集中力がなければ治るものではありません」と冗談っぽく言いました。私は今の政治や経済に対しても国民の信頼というものが一番欠けているのではないかと思う次第です。

 今回の小沢一郎民主党代表の公設第一秘書の逮捕にしても、司法当局は当然のこととして正義を行ったかもしれませんが、日本国民の政治への信頼を更に失わせることになったのではないかと思います。私は政治家による不正行為を野放しにすべきとは思いませんが、法の執行者側も国民全体に与える影響力などを考えて、このような不正行為に対する対応が二段階程度あっても良いのではないでしょうか。例えば、当局は逮捕に至るだけの確信を掴んだ早い段階において、相手に警告して注意を促してその行為を止めさせる段階と、警告に対し反省が見られない場合に逮捕し、事を公にするというように、二段階のプロセスを踏むこともあって良いのではないかと思うのです。

 『向上』の読者の皆様に改めて申し上げるまでもありませんが、私は決して民主党支持者でも小沢氏支持者でもありません。しかし、国益と政治への信頼などを考慮した場合、今回のタイミングはそのような配慮に欠けており、ただ正義のみを重視しているように思います。

 佐藤栄作氏の言う「人財」が不足している.のは、教育が産業化され、知識を詰め込むだけで倫理観、道徳観或いは人間の誇りと自信につながるような歴史教育が軽視されているからではないかと痛感しています。最近の小泉さんの言動を見ても、国家天下を動かすような先見性と広大な理想に基づくものというより、近距離の政局と目先の政治権力のための策略に過ぎないように思います。

 皆様はどうお考えでしょうか。 (了)

※『向上』(2009年5月号)より転載。

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「人財」不足をどう補うか (上)

私が高校生くらいの時に、日本の総理大臣だった佐藤栄作氏は「日本は資源に恵まれていないが、人財しかも材料の材ではなくて財産として豊かである」と自慢気におっしゃっていました。

363_2  当時の政財界を見渡すと納得のいく発言で、政界に関して言えば、福田赳夫氏、三木武夫氏、田中角栄氏、石井光二郎氏、前尾繁三郎氏、船田中氏、荒船清十郎氏、坂田道太氏、灘尾弘吉氏、長谷川俊氏、木村武雄氏、中曽根康弘氏、愛知揆一氏、藤山愛一郎氏、二階堂進氏、松野頼三氏、少し下には宮沢喜一氏、中川一郎氏、竹下登氏などがいました。更に若手として石原慎太郎氏、平沼赳夫氏、安倍晋太郎氏、海部俊樹氏、小沢一郎氏、藤波孝生氏などが台頭しつつありました。

 私はこの中で藤山愛一郎氏、三木武夫氏、木村武雄氏は個人的に好きではありませんでしたが、当時はそれなりの人たちでした。嫌いだった理由は単純で、この三方は共産主義に対し考えが甘いと思ったからです。自分の幼児体験がありますので、共産主義に対しては異常なほどの拒絶反応がありました。最近では、日本共産党が、ぶれずに信念を貫き、党名も変えないので感心しています。 

 話は人財に戻りますが、当時野党でも堂々たる存在感を持つリーダーたちがいました。私は春日一幸氏と塚本三郎氏コンビの民社党が好きでした。成田知巳氏、江田三郎氏なども堂々たるリーダーで、その存在感は高校生の私にも充分に感じ取れました。

 財界においても永野茂雄氏、土光敏夫氏、五島昇氏、村井順氏、正力松太郎氏、松下幸之助氏、佐治敬三氏、鹿内信隆氏などが輝きを放っていました。大学生になってからは、これらの方々にお目に掛かる機会に恵まれました。その理由は、私自身が難民であったことと、政治に関心がある外国人だったこと。私の嫌いな人も含めて、当時の人たちにはオーラのようなものがあったように思います。

 財界や政界のみならず、学会、市民の中にもこのようなオーラの持ち主がたくさんおられたように思います。私自身が直接話を聞いて言葉のみならず、その人の身体全体から発する何ものかが魅力を感じさせた人は、赤尾敏氏、市川房枝女史、加藤シヅエ女史、相馬雪香女史、学会では茅誠司氏、太田耕造氏、気賀健三氏、中村菊夫氏、川喜田二郎氏、竹村健一氏、福田恒存氏、小田村寅二郎氏、衛藤藩吉氏、高坂正尭氏、武者小路公秀氏、加藤寛氏、それにわが恩師・倉前盛通先生がおられ、言論界も健在だったように思います。

 上記の方々一人一人に関して様々な思い出や感想がありますが、共通していることは自分の明確な考えをお持ちで、リーダーとしての確固たる影響力を持っていたことです。改めてこの方々の顔を思い浮かべ、今の日本が財産としての誇れるような人材が不足していることを実感します。毎日のようにマスコミは麻生首相を批判し、麻生降ろしに懸命になっていいます。しかし現段階では麻生氏に,代われる人材すら見当たらないのが現状ではないでしょうか。

 (続く)

※『向上』(2009年5月号)より転載。

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2009年4月15日 (水)

『2009年断末魔の資本主義』(ラビ・バトラ著)翻訳に寄せて

遊技産業が健全娯楽として発展してほしい!

世界も日本も経済不況から脱出できる!

極端な資本主義、共産主義はダメです!

プラウト経済民主主義こそ救世主になる!

「そうねえ、日本に来てから長くなりましたが、ホールに行って、勝って景品に替えた覚えがありますね。玉を手で1個ずつはじく、古いタイプの台でしたが、時間をつぶすのにちょうど良い時間だったのを覚えています。今は、大学で教べんに立ったりして、ホールに行く時間もないほど多忙ですが、どうか、遊技産業も多くの国民から支持される健全娯楽としてこれからも進化していってほしいです。
 さて、世界も日本も、今や、100年に1度という国際金融危機の大津波にもまれている最中です。私は、今回の出版において、多くの日本人の皆さんに、旧来型資本主義社会の崩壊に今すぐ備える必要があるのではないか、ということを強く訴えたかったのです。いまこそ、個人も国家も、会社も、新しいタイプの資本主義を創造し、未来の世界秩序を準備しなければならないと思うんです…」

 来日して44年。大学生相手に教壇に立つ合い間をぬって、このほど、米国サザン・メソジスト大学教授で経済学者として世界でも有名なラビ・バトラさんの著書「2009年断末魔の資本主義=崩壊から黎明へ・光は極東の日本から」(あ・うん)を翻訳した。この本の中で、バトラ教授は (1) 2009年は歴史に残る「資本主義大崩壊」の年になる (2) 原油急落は一時的で、1バレル100㌦超に上昇する (3) イランが中東で大きな動きを見せる (4) 円高はさらに進行し、1米㌦=80円レベルになる (5) 東証株価・日経平均は5000円前後まで下落するーと大胆に予測している。
 翻訳者のペマ教授は「バトラ教授は、インド生まれ、デリー大学卒業後に渡米し、サザン・イリノイ大学で博士号を取得した新進気鋭の世界的経済学者として知られています。これまでさまざまな予測をし、的中させています。世界中でただ1人、1978年の時点で、共産主義が2000年までに崩壊するという予測をして的中。さらに2010年前後に資本主義が終えんすると言っていました。彼の予測はことごとく的中しており、2005年出版の“グリーンスパンの嘘”(あ・うん)という著書の中では、早くからアメリカ型資本主義の矛盾を指摘していました。果たして、オバマ大統領が沈没しかかっているアメリカの救世主になれるのか、ぜひ、この本を読んで考えてほしい…」とPRするのを忘れない。

 「どうしたら、今のような経済の悪循環から抜け出すことができるのか。極端な資本主義、極端な共産主義もダメですね。むしろ、その中間というか、人間個人の自由を尊重したプラウト型(プログレッシブ・ユーティライゼーション・セオリー、進歩的活用理論)の経済民主主義政策が、次の時代に来るべき新たな経済システムの主流になってほしいですね。そして、そのプラウト経済政策を推進する国として、日本が最もふさわしい国だということなんです。
 この政策は、バトラ教授の師であるブラバット・ランジャン・サーカー師が1959年に初めて提唱したもので、包括的で実用的な経済政策であり、また社会政策なのです。この理論の3つの柱は (1) 世界中の資源とその活用の可能性は、人類全ての共有財産と認識する (2) 資源を最大限に効率よく活用し、それを合理的に分配し、真の意味での個人と社会の進歩を目指す (3) 諸悪の根元である富の集中を排除した倫理的で合理的な利益分配システムを作り上げる──というものです。この3理論で、人類の未来は救済されると思います…」

バトラ教授とは元TBSテレビ幹部の紹介で知り合ったというペマ教授。これまでもバトラ教授の著した「2002年の大暴落」「サーカーの予言」「世界同時大恐慌」「資本主義消滅・最後の5年」「日本国破産のシナリオ」「新たな黄金時代」「2010年資本主義大爆裂!」(いずれも、あ・うん)の翻訳に関係しているが、ペマ教授は「バトラ教授は、いくつかの事実の積み上げを丹念に行い、その上で最終的に、第6感的な分析を下しているのです。でも、それらの予測が驚くほど当たるのです。詳しいことは本から読み取って下さい…」と念を押す。こんごの益々の活躍を祈りたい。

◇聞き手/フリージャーナリスト・宮田修(元産経新聞・フジテレビ記者)

※『遊技ジャーナル』(2009年4月号)より転載。

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2009年4月 5日 (日)

中国建国60年目、天安門20年目の憂鬱 対談 石平×ペマ・ギャルポ (8)

法王の身の危険も

ペマ それは、これからの若いチベット人には期待できるかもしれません。しかし、今の法王を頂点とするチベット人にそれは難しい。なぜなら、仏教の教えではそういった「二枚舌」のような使い分けは許されないからです。

Ph05_2 石 なるほど。

ペマ 代表であるダライ・ラマ法王はもちろん、主席大臣もお坊さんです。法王の特使も元お坊さんです。

石 謀略的なことはできないわけですね。しかし、法王には日本で言えば天皇陛下のようなお立場にいて頂いて、何か政治的な組織を作ったほうがいいですよ。実働部隊が戦略を立てなければならない。

ペマ それは今、チベット青年会議が活動していますね。しかし、中国はこのチベット青年会議が、あたかも過激派であるかのような情報操作を行っているんですよチベット青年会議は、唯一、独立しか主張していませんが、デモをやるときに独立を叫んではいけないなどと言う国際団体まで出て来ています。中国を支援しているのか、チベットを支援しているのかわからない状態です。
 しかし私が今、心配しているのは、むしろダライ・ラマ法王が「中国政府には失望したが、中国人民には期待を持っている」とおっしゃっていることです。そのために今、中国人なら誰でもダライ・ラマ法王に会えるようになっています。

石 そうなのですか!

ペマ 私から見ると、それはとても危険に思えます。「仏教を学びます」とか「法王を支持します」と言うだけで、会えてしまう。

石 法王は元来、そういう存在ですからね。

ペマ しかし、これは法王の身の危険という問題もありますが、なにより私は「何のためにチベットを統率しているか」ということがだんだん見えなくなる危険性を危倶しています。つまり、「チベット独立」が骨抜きにされるのではないかという危惧です。

石 なるほど、中国人民に期待をする、つまり中国人民を憎まないとなれば、独立の意味が不明瞭になっていきますね。

ペマ 法王は観音菩薩の化身ですから、法王の立場で「中国人民を許しましょう」とおっしゃるのはいいのです。しかし、私のような生身の人間にとってはそれは難しいことだと思います。中国の人たちに対する怒りを持っているほうがチベット人として普通の感覚でしょう。
 しかしチベットを支援する人たちはチベット仏教に対して過剰なほどの評価をしていますし、法王はノーベル平和賞を受賞しました。ですから、過激なことはダメだと言う人たちがほとんどです。私からすれば、それは本当に戦争をしたことのない観念的な平和主義者の発言に聞こえますし、独立を勝ち取るのはそう容易なことではないと思います。このようなあいまいな形でチベット人が中国人民とあまり近づきすぎることは非常に危険に思えます。
 「○八年憲章」も含めて慎重に分析しなければならないと私は思りています。なぜならば、チベット国内においては一昨年より去年、去年より今年のほうが、状況は深刻だからです。ラサでは、一月にまた八十名くらい中国に捕まっています。

石 それは掃討作戦のようなものですか?

ペマ 三月のダライ・ラマ亡命五十周年が来る前に、という意図です。もう一つ、中国政府はそれに先手を打って「奴隷解放記念日」を作り催し物を行うと言っていたわけですから、中国から見て危険なチベット人を事前に捕まえておくということでしょう。
 また、東チベットや青海省では、毎晩、集会場に集められるということまでやられています。

石 中国はそれほどピリピリした状態だということです。今年は節目であり、体制崩壊前夜ですよ。

(了)

※『WiLL』(2009年5月号)より転載。

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2009年4月 4日 (土)

中国建国60年目、天安門20年目の憂鬱 対談 石平×ペマ・ギャルポ (7)

対話路線で独立できるか

石 しかし中国は、国際社会の批判をかわしたら即、手のひらをかえしてくるような国です。一筋縄ではいかないですよ。今、目の前に暗黒の五十年から抜け出せる時期に来ている。ただし、そのチャンスを捕まえるのはチベット人自身です。チベット人は、宗教と政治、建前と本音、理念と謀略を使い分ける必要があります。
 チベット人の相手は、おとなしい日本でもなければカンボジアでもない。中国共産党なんですよ! 悪の限りを尽くしながら六十年間も生き残ってきた国が相手です。彼らほど表と裏の使い分けがうまい国はない。

ペマ チベットは、「法王がチベットの唯一の正当な代表」と「チベットは一つ」ということだけをもって、中国に対応していくことにしています。

石 確かに、ダライ・ラマ法王がチベットの唯一の代表であることを確認した意味は大きいと思います。私が心配しているのは、法王の取っておられる対話路線だけで中国に対応していてよいのかということです。法王の対話路線は国際戦略で考えれば効果があると思います。つまり、法王が柔らかい態度を取っていれば、国際社会のチベットに対する同情は得られる。
 しかしもし、法王が本気で中国との対話によって「真の自治」が得られるという期待を持っておられるのであれば、それは問違いだと思います。

ペマ 長い間、中国を見てきた私も、それは期待できないと思います。それよりも、中国そのものが今後、どうなっていくのかということに期待するしかありません。
 最近、ダライ・ラマ法王に会いに来る中国人が、「胡錦濤は頭が固いけれども習副主席が次の主席になったら状況は変わる」と言ったりしていますが、こういう話は馬鹿げていると思います。

石 全く馬鹿げた話ですね(笑)。やくざの初代組長は頭が固いから二代目に期待しよう、というような話だ! 二代目がダメならまた三代目に期待しよう、と。永遠に何も変わらない(笑)。

ペマ これは海外にいる中国人を使って法王に話を持ちかけるという、中国の時間稼ぎです。チベットは毛沢東はダメだけれども、少なくとも鄧小平に期待していたという歴史があります。しかし、結果的に鄧小平も毛沢東と変わらなかった。確かに胡耀邦は少し違いましたが……。

石 だから消されましたよ!

ペマ そうですね。

石 ですから、対話路線は国際戦略としてはいいとは思いますが、それにチベットが絡め取られる可能性もあります。「真の自治」の意味を矮小化させる諸刃の刃です。

ペマ 国際世論としては、二〇〇八年十二月四日にEUが法王を招いたり、フランスのサルコジ大統領がチェコまで出かけて法王と会談したという動きがありました。アメリカも近々、何か動きがあるでしょう。

石 そういう国際世論のためには確かに対話路線は効果がありますが、中国と交渉するならばチベット人も表と裏を使ったほうがいい。表の対話路線はパフォーマンスとして行い、裏で独立運動を行う必要があると思います。

(続く)

※『WiLL』(2009年5月号)より転載。

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2009年4月 3日 (金)

中国建国60年目、天安門20年目の憂鬱 対談 石平×ペマ・ギャルポ (6)

チベット人は紳士的すぎる

石 チベットはそもそも今の自治区だけが領土ではないですからね。

ペマ この特別大会が開かれるに当たって、チベット本土の一万八千人余りの人たちから、意見が吸い上げられました。その中の五千人の人たちは、「絶対に独立について譲歩するな」という意見です。二千八百人くらいの人は、「自治でも仕方がない」という意見。

石 その「自治」とは、今の中国共産党が行っている「自治」ではなく、本当の意味での「自治」ですよね。

ペマ 法王が言われる「真の自治」です。
 そして、残り一万人くらいの人たちは、「ともかく法王の意思に従う」という意見でした。

石 その大会にはペマさんも参加されたのですか?

ペマ もちろんです。

石 どういう雰囲気でしたか?

ペマ チベット人は民主主義の制度を学んだなという感想です。昔は地方閥や宗派があって、それによる影響もありましたが、今回は民主主義で話し合いがなされました。あと、みんな演説がうまくなりましたね。

石 ペマさんから見て今回の大会は、チベット人の民族意識が高まって真の自治を求める意気込みが感じられるものでしたか?

ペマ 正直言って、我々の父親の時代のほうが熱いものがありましたね。今の人たちは、世界中から来ているマスコミも意識しながら話しています。ですから、冷静です。会議の中では紳士的になりすぎているかな、というようなことを感じました。
 また、十一月の下旬からは、世界中のチベット支援団体が集まり、特に今後は国連やEUなど国際機関にチベット問題を訴えていくという確認をしました。節目の年にチベット問題をもっと世界にアピールしようというのが、大会の決議でした。

(続く)

※『WiLL』(2009年5月号)より転載。

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2009年4月 2日 (木)

中国建国60年目、天安門20年目の憂鬱 対談 石平×ペマ・ギャルポ (5)

民間の地下兵器工場も

石 チベット問題でいえば、中国共産党の体制がいつまでもつかと法王の寿命との戦いになってきますね。

ペマ そうです。

石 しかし必ず歴史的チャンスが訪れますよ。いかに中国の体制が危機的状況かということを物語るニュースは山ほどあります。例えば先日、重慶で公安局が数千人の武装警察と装甲車と共同作戦を行いました。何のためか。地下兵器工場に対する大規模な掃討作戦です。この掃討作戦は二十四時間にわたって展開されて、六つの兵器工場から自動小銃数千挺を押収したといいます。信じられますか?

ペマ 新華社が伝えているのですか?

石 そうです。つまり、民間が地下兵器工場で武器を模造している。武器を作っているということは買う人がいるわけです。これはすごい話ですよ。どこの国でもこういうことがあるとすれば、それは革命前夜です。

ペマそうですね。

石 群馬県の地下工場で自動小銃を作っているようなものですよ。

ペマ 少し心配だったのは、チベットの遊牧民は銃を持っているんですね。ですから中国政府がチベット人に銃を持たせて、それを口実に大規模弾圧を行う事態になるかもしれないと勘ぐったのですが、今のお話だともっと別の次元の話ですね。中国軍の軍閥の争いがあるのかもしれません。

石 あるいは、軍の金儲けですよね。「南巡講話」で導入した市場経済が、共産党政権の命取りになる可能性がありますよ。市場経済はいったん導入すると、共産主義政治ではコントロールできません。市場経済の論理で動くだけです。それがこの地下兵器工場のように大きなパワーを持つとどうなるか。

ペマ それを新華社が報じているというのは大きい。

石 そう。あらゆる意味で今年は節目の年です。チベット独立運動と中国の民主化運動がどこかで一体になる可能性もあります。先ほども述べたように中国はチベットに手のひらを返しましたからね。ともかくチベットは独立運動を継続して行うということが重要です。放って置いても、中国はこれから悪い状況に向かう。

ペマ 最終的に中国が「そもそもダライ・ラマ法王はチベット人民を代表して交渉する資格がない」と言ったのは、北京政府の言い分によれば代表団の受け入れは法王個人の待遇について話し合うためだということです。チベットの自治について、「鄧小平が独立以外、何を話し合ってもいいと約束した記録はない」と言う(笑)。

石 一九七九年に鄧小平が、「独立以外のことなら何でも話し合う」と呼びかけたことを土台に、ダライ・ラマ法王との交渉が二〇〇二年から始まっていますよ。しかし、口約束ですから、それを利用してきたわけだ。

ペマ 非常に中国らしいと言えば、中国らしい対応です(笑)。しかし、現に一九七九年から何度もチベット代表団は北京に交渉に行っています。実際に私が行った八○年は、チベット人が主張しているチベット領土を、北京政府の役人と一緒に歩いて廻り、北京に戻って何度も会議をしている。にもかかわらず、今になって「鄧小平の発言記録はない」と言う(笑)。

石 胡錦濤訪日と洞爺湖サミットの前に、代表団を受け入れる。そして国際社会の批判をかわす。五輪という目的を達成した途端に手のひらを返す。中国のやり方そのものです。北京政府は元来、いや中国共産党が天下を取る前から、このような手法でやってきました。
 それでもチベットはまだ、北京政府に望みを持っているのですか?

ペマ このようなことがあったため、十一月十七日から二十四日までの間、インドのダラムサラでチベット憲章に基づく全チベット人による特別大会が開かれました。チベットの現職議員や元議員など、インドやネパールといった海外から二十五名、国内から二十五名の有志が集まって協議した。合計十五の分科会を開いて協議しました。
 そもそもこの会議を開いたのは、法王ご自身が「中国政府に対して失望した」とおっしゃったことによります。ですから法王は東京でも「中国に対する自分の政策は失敗だった。失敗は失敗として認めなければならない」と言われました。
 しかし、特別大会が近づいてからは、内閣は「政策そのものを見直すための大会ではない」としました。そして、結果的には「ダライ・ラマ法王はチベットの唯一の正当な代表である」ということと、「チベットは一つである」(いわゆる自治区だけでなく大チベットのこと)という二つを確認しました。

(続く)

※『WiLL』(2009年5月号)より転載。

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2009年4月 1日 (水)

中国建国60年目、天安門20年目の憂鬱 対談 石平×ペマ・ギャルポ (4)

北京が無視できない潮流

石 私が考えるこれからのシナリオでは、今の中国の体制が崩壊するのは、チベット独立運動や民主化運動によるのではなく、その逆です。体制が行き詰まり、崩壊していく中で、独立運動や民主化運動の可能性が生まれる。

ペマ その通りだと思います。

石 体制の崩壊にもいろんなパターンがあると思いますが、一つに体制側が統治方法を変えなければならないところにまで追い詰めていくということがあります。今回の温家宝首相の「回鍋肉」はまさにそのパターンではないかと考えられます。
 そして先ほども述べたインターネットでの政府批判の勃興もあります。こんなことは一昔前なら考えられないことですよ。
 これらを全て、北京政府がコントロールできているとは思えない。一つの大きな流れだと私は思います。

ペマ 全てを中国共産党がコントロールしているとは確かに思えません。同時に外国の操作もあると思っています。
 四川大地震の被害者家族が北京に抗議に行こうとした時のニュースは、先に外国で報道されています。外国に先に漏れて、北京も無視できなくなるという構図です。
 冷戦が終わったと言われますが、それでも東アジアは中国、北朝鮮、ベトナムと共産主義国がいまだ健在です。ソ連の影響下にあったモンコルは民主化されましたが、中国側のモンゴルは依然として共産主義ですね。つまり、中国の影響力はすごく大きい。
 これを西側諸国はよくわかっていて、いろんな力が中国共産党を押さえるために働いていると思います。その動きに入っていないのは日本だけです。

石 本当にその通りですね。アメリカ、EUと共に、日本こそが影響力を発揮すべきです。中国が連邦国家になることが、日本にとっての一番の国益でしょう。

ペマ そうですよ。

石 中国共産党が今のままでさらに巨大化すると、非常に危険です。中国籍の軍艦が津軽海峡を通過したことも、中国が空母を建設することを明らかにしたことも記憶に新しい。
 さらに「人民日報」が報じていましたが、中国の専門家によれば「中国は新型核兵器の開発を止めることはしない」ということです。軍事的にますます巨大化する中国をこのままにしておけば、チベット独立は永遠にありませんし、それどころか日本は次のチベットになります。
 ですから日本は日本の国益のために、中国が連邦国家になる手伝いをしなければならない。

ペマ 日本は中国の動きに対して、もっと敏感でなければならないですよね。フランスのサルコジ大統領やEUがチベット問題に取り組むのは、チベットのためだけに行動しているのではないと思います。国家間のいろんな貸し借りを作るためですね。日本はそういった戦略がなさすぎます。

石 ペマさんが考える中国の連邦共和制のイメージはどういうものですか?

ペマ チベットやウイグルが、きちんと同等のパートナーとして成り立つ連邦制でなければ仕方がないですね。ですから、「中華連邦」ではなく、「中華中央アジア連邦」としなければ我々は関係したくありません。

石 理念が現れますから名前は大事ですね。

ペマ そういう意味で、「○八憲章」には、飛びついて絡みたいというような魅力はないですね。

(続く)

※『WiLL』(2009年5月号)より転載。

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