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2009年6月26日 (金)

中国が張りめぐらすインド包囲網(1)

危機感欠く日本

作戦名は「真珠の首飾り」──。中国は今、「世界制覇」のビジョンを持ち、国家目標として南アジアヘの南下政策を推し進め、インド包囲網を着々と整備しつつある。背景には油のシルクロードであるマラッカ海峡を押さえる体制を整えたい中国の思惑がある。座して死を待つわけにはいかないインドも対抗手段を取り始めている。こうした動きは、日本にとって決して他人事ではないことを認識する必要がある。

インドを包囲する「真珠の首飾り」

 日本ではあまり報道されていないが、中国は現在、「世界制覇」のビジョンを持ち、国家目標として南アジアヘの南下政策を強力かつ着実に推し進めている。今、世界の政治を俯瞰すると北朝鮮、ミャンマー、スーダンなどの抑圧的独裁政治国家の背後には中国の存在が見え隠れしている。ミャンマーの軍事政権は中国と深いつながりを持って維持されており、あるミャンマー人は筆者に、「現在、旧都を中心に、ビルマ語のできないビルマ人が大勢いて、ビルマを我が物顔で振る舞っている」と嘆いていた。もちろん彼が言う「ビルマ語のできないビルマ人」とは中国人のことである。

 以前、日本のある勉強会で筆者が、「中国がミャンマーに港を確保した目的は軍事的なものである」と指摘したところ、日本の駐ミャンマー大使は、「そんなことはない」とご立腹なさったが、その後筆者が、チベット系のインド国防関係の専門家に再確認したところ、インド側は「そうだ」と明言した。ココ諸島には中国海軍の軍港があり、通信傍受基地も建設したとされている。また中国はミャンマーのダウェーやシットウェにも、軍艦が寄港可能な港湾施設を整備している。

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 2004年にインドネシアやタイを津波が襲った後、ベンガル湾で日本が救済活動をしようとした時、インド側が日本の協力を断ったことを記憶している読者も多いだろう。その理由について、コメンテーターや評論家は「インドのプライドが邪魔した」と説明していたが、筆者はインドが中国海軍を牽制するため、ミャンマーに整備している海軍基地に外部の人間を入れたくなかったのではないかと推測している。パキスタンは周知のとおり、中国の盟友であるので、当然中国が軍港を確保している。同国内の小さな漁村だったグワダルには数年前から、中国からの資金援助及び建設技術の供与によって、潜水艦も寄港可能な水深の深い港が建設されている。かつてパキスタンから独立する時に、インドが深く関わってきたバングラデシュのチッタゴンにおいても、残念ながら現在は中国の援助で港を改造し、中国海軍の利用が可能になっていると確認されている。

 中国の南下政策は港の建設だけではない。いわゆるチベット鉄道もネパールまで延長することが中国政府とネパール政府の間で合意され、地質調査等に着手している。

 日本人の感覚からすると、港や鉄道を整備している状況だけで、中国が南下政策を推し進めていると決めつけるのはおかしいのではないか、と思うかもしれない。だが、中国の場合、こうしたインフラは常に軍事的観点でつくられており、なおかつ軍の独占事業でもある。それゆえ、設計から管理まで軍が深く関わっているという事実を認識する必要がある。たとえば、チベット鉄道の建設現場は一般人を近づけないよう、軍の厳重な管理下に置かれ、視察するのも軍関係者ばかりであったとされている。加えて、港を整備すれば、現地に雇用も生まれ、経済援助と同じような効果をもたらし、ハードパワーとソフトパワーの両輪で相手国を取り込むことが可能であることも忘れてはならない。

 こうしたインド包囲網を構築しようとする中国の戦略を専門家は、「真珠の首飾り」と命名している。これに対してインドは、警戒感を強めている。その証拠に中国が以前、モルディブに港の建設協力を申し出たところ、インドが大反対してその動きを封じ込めている。だがインド側の動きを嘲笑うかのように中国は07年よりスリランカ南端の小都市であるハンバントータで港湾建設の援助をしている。スリランカのラージャパクサ大統領は当初、日本を含む中国以外の国々の協力で港湾建設を実現させようとしていたが、スリランカの内戦などに対して日本側から「自国で平和裏に解決して欲しい」との留保条件を付けられたことからやむを得ず断念し、その代わりに大統領の弟を中国に派遣したのである。そのチャンスに中国政府が飛びついたと見る専門家もいる。

 このように中国は、インド洋の大国で新興国として力を蓄えてきているインドを包囲しつつ、インド洋に出て、“油のシルクロード”とされるマラッカ海峡をいつでも押さえられるような体制を整えているのだ。こうした動きは、アメリカの第7艦隊にとって、大きな脅威になるだけでなく、石油など多くの資源を海上輸送での輸入に依存する日本にとっても、ライフラインともいうべき「首根っこ」を押さえられることを意味するのである。 (つづく)

※『WEDGE』(209年7月号)より転載

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