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2009年6月 7日 (日)

インド総選挙の成功に思う


遅いが着実に一歩前進
民主主義の成熟を印象づけ

 世界最大の民主主義国家インドでの2カ月にわたる長期の議会選挙が終わり、1961年以来48年ぶりに前の政権が引き続き与党として政権を担当することが確実になった。インドの国民会議派は単独で定数543議席のうち206議席を獲得し、連立の中核となった。

 インドは全国で300以上の政党が選挙に名乗り出たが、その中核になっているのは国民会議派とインド人民党の二大政党である。この選挙を通して私が感じたことは、第一にインドの選挙民が現在の諸々の改革を推進してきたマンモハン・シン首相の路線を支持したということで、新政権は今まで以上に自信を持った政権になったということである。

 第二の特色はラフール・ガンジー氏。ネルー首相から4代目の世襲政治家であるが、自ら世襲という偏見をはね返すため、この数年間地方、特に貧困層や最下級の人々と積極的に交わり、農村や貧困層に予算などを配慮することが功を奏し、今回の選挙を通して親の七光ではなく自らの努力によって大衆の支持を得て国家的指導者に成長したということである。

 ラフール・ガンジー氏は39歳の若さで、今回マンモハン・シン首相からの再三の入閣要請にも現段階では辞退し、あくまでも若い世代の政治家の育成と、自由に国民と接触できる立場を維持したいとして、党務に専念する姿勢を示している。勿論、この行為は自分は権力欲よりも国民に尽くす政治家であるということをアピールするためのパフォーマンスもあるだろう。私が感心したのは彼が選挙結果を受け、勝利を宣言するとき国民に謝辞を述べると同時に、野党第1党の党首で政治家として大先輩であるアドバニ氏に対し、選挙戦を懸命に戦った姿勢に敬意を表すことを忘れていなかったことである。これはまさに政治家の品格の問題でサラブレッドならではのメリットではないかと思った。

 今、日本では世襲政治をデメリットとして考える風潮があるが、私自身は政治家の家庭に生まれても、政治家としての素質と環境を充分に生かして国民のために尽くしてくれるのであれば、世襲も良いのではないかと思っている。ラフール・ガンジー氏は自分は若い人たちが政治に対して関心を持ち、政治に参加してくれるために貢献したいと述べ、今回発掘した人材の中には国民会議派だけでも二十数名の世襲議員がいる。私は世襲制の問題は候補者本人が政治家の息子や娘であるなしの関係よりも、その人物を正しく評価できる力を選挙民一人一人が持つかどうかの問題であると考える。インドの2世、3世の議員の人々がこれから国家、国民のためにどのような貢献をするか興味を持って見守りたい。

 今までインド国民は選挙があるたびに政権を交代させ、そのためにインドは民主主義があるから前進しないのだと言われ、共産党一党独裁の中国よりも発展がやや遅れているのも民主主義のせいにする人もいた。勿論、一方において中国は人民を餓死させたが、インドには貧困はあっても餓死がなかったのは民主主義のお陰であると擁護する人も当然いる。

 私は、インドの民主主義は水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」の歌詞のように三歩進んで二歩下がる様子は否定できないが、着実に一歩進んでいることを誇りにすべきと思っている。今回も7億人の有権者に対してマオイスト(毛沢東派)などの選挙妨害があったにもかかわらず、大きな混乱もなく選挙が平和裡に完了した。このことはインドが単に最大の民主主義国家であることのみならず、インドの民主主義が成熟していることを内外に強く印象づけるとともに、今後は更に自信を持ってアジアのリーダーとして発展し南アジア全体の安定と繁栄に貢献して欲しいと願っている。南下を目論んでいる中国の軍事力や経済力を背景にけんした覇権拡張に対しても充分に牽制し得る立場を確立しつつあると見ている。

 東南アジアおよび東アジアにおいて華僑ネットワークをフルに活用している中国の一方的な誘導で進もうとしている東アジア共同体も、より拡大したところでインドを中心とする南アジアと今後連携するために関係を強化していくことが日本のアジア戦略にとって極めて重要であるように思う。

 日本は今、留学生を30万人に増やそうという大きな目標を掲げて関係省庁も動き出しているらしいが、私はこの計画においてはインドを中心とする南アジアにもその扉を開いて中国や日本近辺の国々とのバランスを取ることが急務であるように思う。インドの政治の安定は日本にとって歓迎すべきことであり、日本も一日も早く政治が安定し金融危機を乗り切ってインドとともに再度国連の安保理の常任理事国にチャレンジし、アジアと世界に貢献できる国になることを願っている。

 それによってロシア、中国、アメリカとバランスをとり均衡するための好機がインドの国民の知恵によって与えられたと今回の選挙を見るべきではないだろうか。

※『世界日報』(2009年6月4日付)より転載。

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