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2009年11月23日 (月)

日・ブータン関係への期待

観光や有機農法に展望
立憲君主制移行で新興活力

 この度5日間という短期間ではあったが、バンコク経由でブータン王国へ関係者との打ち合わせのため訪問した。ブータンは現在年間2万8千人の観光客が訪問しているが、この人数を2013年までに10万人に引き上げるという、ややもすれば大胆すぎる目標を掲げている。しかし、同時に自然と文化的環境を保全することも重視している。現在、日本からの観光客はアメリカに続き第2位。できれば観光客全体の2割程度が日本から来てくれれば理想であるとしている。その理由は同じ仏教文化を共有する日本の方が、ブータンの若者に対して良い影響を及ぼすことを期待しているからである。

 今回は大手航空会社の系列旅行会社の社長以下4名が同行し、日本の富裕層をターゲットとしてブータン・ツアーを組むための下準備をしたが、一部上場の製薬会社社長も現地視察を行った。今後ブータンとの協力関係について総理大臣以下、各関係大臣や事務当局と合計21回の会合を3日間で消化し、双方十分に満足するものとなった。特に製薬会社の社長は既にブータンの農業及び畜産の発展のために博士課程の留学生2人を日本に招聘しており、今後も具体的に投資するためのホールディング会社の設立や留学生の継続的受け入れを合意し、ブータン側に大変感謝されるなど、両国の今後の関係を更に深める上で建設的役割を果たしたことを確信した。

 中国とインドという世界の2大国に挟まれている地政学上の不利な状況をプラスに変え、現在、外交・防衛などあらゆる面においてインドとの強い絆を維持しながら、将来は経済的に発展しつつある中国、インドの両方の富裕層をマーケットにしたいという戦略も着実に進んでいる。ブータンは大量生産よりも有機農法をブランドとし、健康食及び伝統医学(チベット医学)を背景とした薬草に基づく東洋医学を世界に広めたいという夢を持っている。

 また、南及び中央アジア周辺諸国の不安定な政治に比べ、ブータンは新しい立憲君主国として民主化を進め、国の安定した政治状況を活かして国際教育のハブを目指し、近々自国の研究機関を大学に格上げすると同時に、海外からの教育機関と提携するシナリオを持って積極的に動いている。自然環境の美しさと豊かな水資源、美味しい空気もこのような教育産業の発達に貢献すると見られている。

 私が特に感銘を受けたのは、国家公務員の質の高さである。つい最近皇太子に王位を譲って引退した第4世ジグメ・ワンチュック国王は先代の急死で17歳の若さで王位を継承し、以来様々な工夫を加え特に人材育成に力を入れている。多くの若者に教育の機会を与えた成果として、高官たちは隣のインドをはじめ世界各国の大学に留学し、修士課程や博士課程まで修了している。特に一旦公務員になってそれぞれが自分の道を定めてから、修士課程や博士課程に進学させて来たため、各分野においては世界の近代的教育レベルに達した40代から50代の頼もしい官僚たちが課長、局長、次官クラスで切磋琢磨している姿は、国の将来に期待を持たせる要素になっている。

 しかも彼らは国王が発願したGNH(国民総幸福度)の哲学をしっかりと身につけており、将来に対して価値観と明確な目標を共有しているので、エネルギーを無駄なく集中させている。ジグメ・ティンレー首相は、初の議会制民主主義制度のもとで誕生した首相として、自分の政権は民主主義の土台とGNHの哲学に根ざした国作りのしっかりした土台を作ることが最大の任務であり、それに失敗したら民主主義政府そのものに対する国民の信頼を失うことになるので、国王の壮大な理想と国民の現実的生活向上をもって目に見える成果を出さねばと奮闘している。

 しかし、残念なことに今年は地震、洪水など災害が続き、予想外の出費とエネルギーを使うことになったが、首相はこれも試練であると言って非常に前向きに受け取られていたことに私はほっとした。また国王は何日も被災地で国民とともに過ごされ、復興活動に自ら陣頭指揮を取られた。国王の「私はこの度の皆さんの悲しみを消す術も無ければ、涙を流すなとも言えない。失った者に対する精神的なものは私たちが自ら克服するしかないが、政府は今回失った家を再建し、この町を以前よりも素晴らしい町にすることを私が保障する」という言葉に対してある村人が、「国王のあの言葉こそが私たちにとって精神的に大きな支えであり、悲しみを癒やす力がある」とマスコミに答えていた。

 私はこれを見て、日本の政治家が被災地やホームレスなどを訪れているときなどのパフォーマンスにしか見えない表面的な同情とは根本的に違うと感じた。それと同時に戦後日本の復興に力を注いできた日本の官僚たちや明治維新に貢献した日本の青年志士たちがチベット仏教的に言うと今ブータンに生まれ変わって奮闘しているように見えた。我が国の新政権に対しても国民から寄せられた信頼と与えられたチャンスを良い方向に使ってくれることを心から祈りながら帰国の途についた。

※『世界日報』(2009年11月16日付)より転載

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