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2010年8月25日 (水)

アジアの中の日本、その役割と展望 (3)  


インドを挟むアジアのバランス

 田中角栄さんが日中国交回復をやったとき、最初私は自分自身の生い立ちもあって賛成ではなかった。しかし、中国から残留孤児の人たちが帰ってきたとき、田中さんは本当にいいことをやったなあと思いました。

 同時にそのとき、私は日本の人たち、マスコミに騙されていると思ったんです。というのは、当時の新聞が、中国では11力所に、右油が出るということを日中国交の一つの理由だと報じました。しかし、その後中国は自ら近代化するために中国そのものが石油を輸入する国になってしまいました。そして、日本、台湾、韓国は中国にどんどん投資をして、いざというときそれを引っ張れば中国を倒せると思ったのが、ミイラ取りがミイラになってしまった。結果として今日、中国は軍事面でも経済面でも大きな力を持ち、もはや世界が無視できない存在になりました。

 その中国は、しばしば日本のまわりで軍事演習をやったり入ってきています。バングラデシユ、ミャンマー、スリランカ、パキスタンと、インドのまわりに軍用に使える港をつくっています。チベットを通して鉄道をつくりました。近いうちにネパールに延長することになっています。これも軍の管轄です。インドの中ではカルカッタに出ようとしています。

 このような中において、アメリカはインドの重要性に目覚めました。クリントン大統領のとき国務長官がインドに行き、そのあとクリントンが行って、「インドは無限の可能性を持った国だ」と持ち上げました。現在、アメリカとインドは極めて密接な関係を持っています。そのーつの理由は、アメリカはインドなどに大きな役割を果たさせようとしています。日本からも沖縄から7千人、韓国から3万人の軍隊を引き上げる。アメリカとしては、東は日本に少し負担をかけよう、こちらはインドに負担をかけようとしています。現在、インドも日本もアジアに脅威になるだけの軍事力はありません。ただし、中国が攻めてきたとき多少抵抗することはできる。インドはいま17隻ぐらいの潜水艦を持っています。アメリカの第7艦隊が最近はこの辺までずっと行き来して、そしてインドが少し持ちこたえてくれればアメリカから応援に行ける。台湾に関しても、もし中国が入ってきたとき、日本が少し持ちこたえてくれればグアムあたりから応援に行けると。インドはいままで武器をソ連から調達していましたが、いまはアメリカ、イスラエルの武器に変えています。これは長期的な展望を持っていないと簡単にそういうことは出来ません。

 いまアメリカにいる華僑が5千万人と言われていますが、印僑は2干万人いるんです、かつてインディラ・ガンジーのときの70年代、インドが戒厳令を敷いたために、ある程度優秀な人たち、お金を持っている人たちがアメリカに留学しました。その人たちが現在アメリカで成功して、たとえばシリコンバレーやNASAで、あるいは今回のアメリカの中間選挙には40名近くのインド人たちが選挙に出る。知事にもかなり有力な候補が出ているんです。

 こういうことでインドとアメリカは現在かなり戦略的に結びつきが出来ました。その指示があったのか、あるいは日本が自ら悟ったかわかりませんが、02年に森首相がインドヘ行きました。以来、福田さん以外の全ての総理大臣がインドヘ行っています。そして現在、幸いにしてインドと日本の問には戦略的グローバルパートナーシッブが構築されています。グローバルパートナーシップや戦略的、というのはほかにもたくさんあるんですが、戦略的グローバルパートナーシップの合意というのは現在、日本とインドだけです。鳩山さんも12月27日だったと思いますが、2日間インドヘ行きました。その成果として、インドと日本はアメリカと同様に今後2プラス2の会議を定期的にやり、今後、さまざまな協力をしていこうということになりました。

 インドも日本も、中国を意識しているわけではないと言っていますが、これはもう見え見えです。私は、これが間違っている戦略だとは思わないんです。きょう私が皆さんに特に話したかったことは、このように日本とインドが首脳レベルでお互いに必要性を感じて、いくつかの合意が出来ました。昨年1年間の外国への投資額も一番多い相手はインドになりました。ODAも近年はインドに一番多く出しています。しかし、残念ながら一方において、民間のほうが全然盛り止がっていないんです。マスコミもあまり盛り上がっていない。その一つの理由は、たぶん人材不足だと思います。

 インドも中国も、もちろんすべてうまくいっているわけではありません。まだまだ問題はいっぱいあるんです。しかし、日本がインドと仲良くすることは、日本が中国と仲良くするためにも大事だと思いますし、バランスの問題としても極めて貴重だと思います。いま中国はインドと経済的には仲良くしているけれども、軍事的には包囲しながらやっている。これが普通の国として当たり前だと思うんです。どこの国も自国の国民と国民の生命財産を守る、自国の領土を守るのは当たり前のことだと私は思います。だから中国が悪いというよりも、あれだけの人口を抱え、そして自分たちが政権を継続するためにはどこかに不満を向けなければならないんです。だから、たとえば中国では昨年、4百本の映画をつくったらしいです。そのうちの2割ぐらいは反日映画です.同じく4430本のテレビドラマをつくったらしいですが、その中の約2割は反日なんです、これは、中国が国家としてやっていることは当たり前なことであって、むしろ、そういうことに警戒心のない日本のほうがちょっとおかしいのではないかと私は思っているんです。

 一方、インドというよりも、タイから向こうの南アジアの人々は日本に対してうらみつらみが無い。ですから、たとえばインドでは2年ごとだったか大使館が世論調査をやってもダントツ日本が憧れの国、尊敬する国なんです。だけど、いまインドで日本語を勉強して日本語を喋れるインド人は5千人ぐらいしかない。中国には30数万人いるんです。そして、日本に来ている留学生は中国人が9万人くらいいます。全体13万人のうち、インド人はまだ数百人です。しかし、インド人にお金が無いわけではないです。日本人は長い間、勝手にインドはお金がないと決めつけてきたけれども、アメリカには8万人のインド人の留学生がいて、英国にもフランスにも行っているんです。残念ながら戦後の冷戦構造の中において、日本はアメリカの延長線、インドはソ連の延長線でお互いに見てきたのでその間に空白が出来たんです。現在、中国と日本の間には少なくとも700便ぐらいの飛行機が往復していますが、インドにはまだ20便ぐらいです。そういう意味で見ると、今のインドと日本の関係はインドと中国の関係の36分の1位です。せっかく国のトップが世界の状況を考えて動いているのに民間レベルで動いていない。きょう私は特に財界トップの皆さんに、このことを申し上げたいと思いました。

 エネルギー問題に関しても、日本がインドに核技術を提供することについて、インドがNPT(核兵器不拡散条約)に参加していないなどを理由に外務省が蹟躇しています。最近、長崎の市長さんと広島の副市長が外務省に対して絶対にインドに協力してはならない、協力したら核拡散につながると言っていますが、核拡散を言うのであれば、むしろ中国のほうがはるかに核拡散です、なぜならば、インドが核実験をやって、その数日後にパキスタンが出来たということはおかしいんです。それは、中国から核を持ってきて、パキスタンは組み立てしかやっていない。そして、そのパキスタンのものは北朝鮮に行っているんです。このことは、それを研究している人だったらたぶん常識だと思います。

 日本は表面的なことに惑わされて、せっかくのチャンスを失ってはならないと思います。もちろん私が言っていることも多少バイアスがかかっていることも考慮に入れてください。私の命を拾ってくれたのはインドで、そして私の命を育んでくれたのは日本ですので、当然私は白分のためにもこの2つの国が仲良くなることを心から望んでいます。一方、私をふるさとから追い出したのは中国ですから、これもまた考慮した上で判断してもらいたいんですが、しかしどう考えても日本の今後の発展とアジアにおける、世界における日本がもっと大きく発言できるためにはインドとの関係が大事だと私は思います。森首相がインドに行ったとき、日本とインドは自然のパートナーだという言葉でした。まさに自然のパートナーだと思います。たとえば、1951年のサンフランシスコ講和条約にインドは参加しませんでした。なぜ参加しなかったかというと、国連憲章第五十三条にまだ日本を旧敵国として扱っているのはおかしい、日本をその一員として入れるんだったら削除すべきだというのがインドの主張でした。だからインドは日本と別に条約を結びました。それから、今の今上天皇が皇太子のとき、1964年にインドが受け入れました。戦後なかなか皇室を受け人れる国はなかったんです、そして今、日本が国連安保理の常任埋事国になろうと、日本、インド、ブラジル、ドイツが共同歩調をとろうとした。ところがアメリカが憲法九条のままでは国際社会における常任理事国の役割を果たせませんと言った。もしやるんだったら拒否権のない常任理事国にしようと。インドはそれだったらいやだと言っているんです。 (つづく)

※『いわて経済同友』(通巻555号)より転載。いわて経済同友会第444回例会(平成22年7月12日)での講演録

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