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2011年6月26日 (日)

チベット改革仕上げる法王

中国支配の弾圧は続く
ハンストで抗議する青年ら

 今回はチベット間題について報告したい。皆様ご存知のようにダライ・ラマ法王は400年続いた宗政一致の政治制度に自ら終止符を打ち、チベツトの王としての政治的権力および行政の最高責任者としての地位を退く、と今年3月10日に発表された。もちろん法王は熟慮を重ねた決断である。亡命政権の議会と内閣は法王に考えを直していただくよう再三嘆願したが、法王の決意が固く、最終的には内閣も議会も承諾せざるを得なかったようである。

 議会は内閣の主席大臣と議会の正副議長ら5人からなる小委員会を結成し、今後の法王の地位などについて研究し、議会に報告するとともに法王の新たな地位に関する暫定憲法の見直しをすることになった。またこれを受けて、内閣と議会は第2次チベット人大会を5月21日~24日に行った。チベットの各難民キャンプ、各宗派の代表など大勢が集まって今後のチベットのあり方について検討を加えた。チベットの人々の総意として、今後も法王には何らかの形でチベットを導いていただきたいということになり、元首の地位にとどまっていただきたいと陳情する方針を議会は採択した。しかし、法王のご意思は固いようである。今後、チベット民族にとって法王をどう表現するかは第14回議会でまとめる方向だ。

 法王はこの数年北京政府との平和的なチベット問題の解決を求めて、対話路線を歩んで来たが、中国側の不誠実な対応のため2009年10月以降は進展がない。長きにわたって法王のご意思を尊重し北京政府との平和的解決に対し、多少の期待を持っていた人々でさえも、北京側の時間稼ぎのような対話には強い不審と不満が湧いてきている。

 そこで法王が今まで努力した結果、北京政府が一向に誠意を示さないばかりか後退するような発言や言動に、法王もかなり中国のやり方に落胆を隠せず、だからと言って対話路線を諦めることもできないため、中国の当局に対してもまたチベットの不満分子に対しても匙を投げたとも言えよう。

 もう一つ法王の政治の第一線から退く理由は、法王ご自身の長年のライフワークとして「近代チベット民主化の父」として、ご自分が健在なうちに民主化を図り、国民から直接選ばれた人物に政治的権限を委ねるとともに、その人を支えていく覚悟を示されたものと思う。

 法王はインドに来て間もない時期からご自分がチベットで実現しようと思っていた改革を実践実行するため、チベットの民主的な憲法の草案をまとめ自らの地位をも憲法の中に規定するなど様々な民主改革を行ってきた。そして今回は総仕上げのような気持ちで政教分離をより明確化し、他の民族から強制されなくともチベット人は自ら変わる能力があることを示されたのだと思う。

 法王はまた一方において中国政府によって所謂チベツトの活仏制度そのものに千渉しようとしている中国に先手を打つため、自ら政教分離をすることで、チベットのみならずチベット文化圏のより多くの方々に影響を及ぼすことで、世界の平和の指導者として貢献しようとなさっているのではないだろうつか。

 即ち、チベットのみならずチベット文化圏の法王としてチベット仏教が盛んな国々、モンゴルやインドのラダック、ロシアのブリヤートや、カルムィキア共和国、そして今増えつつある西洋の仏教徒などへ影響を及ぼすことによってチベットという狭い世界よりも、全世界を意識した広い意味でのリーダーになることで正義と平和を追求されるのだ。

 しかし、悲しいことに中国はここを逆にチャンスと見て、今、中国支配下のチベット国内の弾圧はより強くなっており、現在も今年3月に焼身自殺をした青年僧侶の死を悼み寺院に集まった周辺の人々を始め、約2000名の入々が体よく寺院に閉じ込められ、未だに外部と接触できないような状態に置かれている。この状況を打破しようと世界各地で署名運動やデモなどが行われている。

 ニューデリーではチベット青年会議のメンバーを中心に無期限のハンガーストライキに突入している。この青年たちの活動は、まさに法王のご意思通りの平和的な手段で抗議を続けており、純粋な気持ちで世界にアピールしようとしている。しかし、残念ながら世界各国の政府は人権をお経のように唱えてはいても、実際チベットの人権などに関心を持ち中国政府に対し中国の行うことが非人道的で、社会の常識に反するものであり、そのような人権の抑圧を看過できないと訴える人はほとんど現れず、結局、力が強い者には正義も通用しないというのが今の物質文明の世界の風潮であるのかもしれない。

 5月21日から中国の温家宝首相が来日した。私はこの時期に日本の政治家たちや財界のトップがチベット問題のみならず、現在中国の下で苦しんでいるあらゆる政治犯の皆様を釈放し、その人々の人権が回復できるように日本が中国にアドバイスをするようになることは、日本にとっても、中国にとっても有益ではないかと思う。

※『世界日報』(2011年06月1日付)より転載。

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