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2011年8月16日 (火)

中川志郎元上野動物園園長との対論 「パンダ外交について」


≪中川志郎氏≫

 

■日中を結びつけた“功労者”

 --昭和47年にはパンダが初めて来日し、大ブームとなった

 「日本と中国が国交を回復した直後、両国が再び付き合いを始める印として、パンダが贈られることが決まった。当時、パンダは地球上に千頭しかいない、とされており、一般の人たちはほとんど、パンダという名の動物を知らなかった。一体、どんな生き物なのか、日本中で関心が高まり、多くの新聞や雑誌などで取り上げられたことで、そのかわいさと愛嬌(あいきょう)のある仕草に国民は圧倒された」

 --来日したパンダの飼育に携わられた

 「私は1969(昭和44)年にロンドン動物園でパンダの飼育実習にかかわった。パンダが日本に来ると決まってからは、受け入れチームが作られ、準備を進めた。国民の期待は大きかったが、日中の国交回復を快く思わない者もおり、飼育係は親善大使のパンダに傷が付くようなことがあってはいけないと心配をしたものだ」

 ○外交的な意味ある

 --中国がパンダを外交に利用しているとの指摘もある

 「中国が外交利用を意図したのかは不明だが、国家元首が他国を訪れた記念に、動物が贈られることはよくある。『一頭のパンダは十人の外交官に勝る』という言葉があったが、外交的な意味でみれば、パンダを贈られたことで、日本人の中国人に対するイメージは変わった。戦争を経て離れていた日本人と中国人の心を結びつけた最大の“功労者”がパンダだったのではないか」

 --パンダを借りる際に支払うお金が話題になっている

 「一般にレンタル料と呼ばれているものは、実際は、パンダの繁殖生態研究のために支払われるお金だ。パンダはワシントン条約で保護されている動物であり、(生息地域から)移動させてはいけない。政治的に寄贈したり、贈呈したり、無料で貸すことには厳しい制約がある。だが、繁殖のための研究をする、あるいは、動物学的な研究をする目的で移動させる場合は、その制約が外れる。中国は『研究のために使ってください』との名目で、他国にパンダを貸し出している」

 --なぜ、お金が動くのか

 「他国に貸し出すことで、パンダは繁殖の機会を奪われる。こうした状況をカバーするため、パンダを借りる国は、パンダの人工授精、共同研究など、研究費の一部を負担している」

 ○保護のための費用

 --多額の料金を支払うことには批判もある

 「保護繁殖のための費用であり、損得感情で見るべきではない。パンダの保護に協力したいと思う国は積極的に資金を出してもいい」

                   ◇

 

≪ペマ・ギャルポ≫

 

■国家ビジョン達成の道具

 ●日本の片思い

 --パンダ2頭が来日した

 「『平和の使者』『友好、親善の大使』のように言われるが、日本は中国に年間約7800万円を支払う。友情はお金で買えるものではない。両国が仲良く付き合っていくことは大切だが、いまは両国の関係は対等とはいえず、どちらかというと日本の片思いになっている。その思いは、中国に魅了されているからではなく、作り上げられた歴史への罪悪感から、一生懸命尽くしているといった印象だ」

 「もう一つ問題なのは、パンダが雲南や四川といったチベット人領域に生息している動物であることだ。中国が費用を取って貸し出せば、盗品を売っているのと同じだ。売った側にも責任はあるが、盗品と知りながら買えば、犯罪であり、道徳に反する」

 --パンダ人気に沸いた昭和47年の日中国交正常化当時と今では、状況は激変している

 「当時、大手新聞は、中国の十数カ所に油田が出ると報じた。結果的に期待したものではなかったが、中国と国交を結べば、油が手に入るといわれていた時代だった。また、経済的に遅れていた中国をどうにかしなくてはいけないという仏心が日本にはあった。だが、今は、中国は日本を追い越した。日本のリーダーたちが考えなければいけないのは、“強い中国”は日本にとっていいのか、悪いのか、ということだ。日本がどんなに(パンダを通じて)善意を尽くそうと思っても、中国は必ずしもそう考えてはいない」

 --中国が意図するものとは

 「中国は軍事増強を進め、国内においては、武装警察や公安の人数を増やして政府批判や反体制勢力を徹底的に鎮圧している。中国は、アジアの超大国になるという野望と戦略を持って、前進中だ。達成するためには、ソフトパワーもハードパワーも上手に使いこなす。例えば、尖閣諸島に侵入するような挑発行為をして相手を試す一方で、パンダ外交というような友好も演出する。日本は中国人民を苦しめている政権に対して『友好、友好』と言って、すべてのことに見て見ぬふりを決め込んでいるが、パンダは中国の国家ビジョンを達成するための道具の一つという現実を直視すべきだ」

 ●熱はすぐ冷める

 --パンダの来日で、動物園は入場者数の増加が見込めるのでは

 「今年の夏は、東日本大震災による節電の影響で、冷房の使用をひかえる家庭が、外出の機会を増やすかもしれない。動物園に足を延ばす人も多いだろう。(パンダという)新しいもの見たさで、ある程度の経済効果は見込めるだろうが、私はすぐに冷めるとみている」

                   ◇

※ 『産経新聞』(2011年7月29日付より転載)

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