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2015年6月 8日 (月)

リー・クアンユー氏に思う

小さくとも輝く国造り 
日本はシンガポールに学べ 

   3月23日、シンガポールのリー・クアンユー元首相が91歳で他界したという悲 しいニュースに接した。シンガポールは 1965年8月にマラヤ連邦から独立 し、同年私が日本に来た頃、新聞によく 登場していた人物である。
  シンガポールを含むマラヤ連邦は、1960年代当初、国連においてチベット 問題を積極的に支援していた。リー・クアンユー首相はベトナム戦争においても反共の立場でアメリカを支持したため、 子供でありながら私は彼の言動に興味を 抱き、その後も彼の動向を注目し著書などを懸命に読んだ記憶がある。彼が当時 「私は中国人ではなく、中国系シンガポール人である」といぅ言葉には特に感銘を受けた。
  1980年代初め頃までシンガポール はチベット問題に対しても非常に理解のある国であった。彼は若いときには共産主義も受け入れていたが、60年代から既に資本主義を導入し、独自の民主国家を建設して沢山の優秀な官僚を育てた。私は大学を卒業後、ダライ・ラマ法王の代表として当時アジア太平洋全体を担当しており、法王のシンガポールご訪問の際も寛大なご協力をいただいた。
  戦前及び戦中のアジアのリーダーに次ぐ戦後のアジアのリーダーとしてイン ドのインデイラ•カンジーとリー・クアンユーは世界的にも存在感を発揮していた。後になつて同じ客家といぅことで鄧小平とも理解しあえる関係になり、中国の近代化にも多大な貢献をした。これには感情的に理解できないが、私の人生において最も憧れた20世紀のリーダーの一人であり続けた。ここに生前のご好意に感謝し今日の、小さくとも輝くシンガポールを造ったことに、心から敬意を表したい。国の繁栄は国家のサイズや人口あるいは資源だけではなく、リーダーのビ ジョンと国民の強い意志によることを具現化し、私たちに教えてくれた人物であ った。
 私は今の安倍首相も戦後日本の国家としての真の独立と繁栄のために努力していることは評価するものの、日本国全体 としてはシンガポールから学ぶことが多いように思う。過去の日本のリーダーはシンガポール同様極めて有能な官僚たちを育てたが、近年無能な政治家と無責任なマスコミはそのエリートたちをバッ ングし、多くの人材が民間企業や外資系に流れたことは勿体無いことであった。
 その一つの例が、昨年の日中首脳会談に関する合意文書の英文が双方が擦り合 わせをする前に中国によって一方的に発表され、尖閣諸島が問題としてあたかも日本側が認めたかのような印象を与える ような事件が起きたことだ。私の未熟な 経験から言っても、通常二つの異なる言葉で覚書や合意文書を作る場合には、両国の言葉以外に共通語として英文などに訳し、それを双方が照らし合わせ一語一 句を確認するのが常識である。
 当時、日本では朝日新聞をはじめ、マスコミや元老、言論人は直接対話が両国の関係改善のための第一歩であると、対話をすることだけに注目をしていた。し かし、その対話は害あって得るものは何一つ無かったように私は思う。むしろ中国によって世界中のメディアや専門家に尖閣諸島問題、つまり領土問題があるかのようなイメージを作るのに利用されて しまった。
 今再び日本のメディアや政界の元老、 財界の重鎖、そして宗教までが安倍首相の戦後70周年の談話に侵略と植民地支配を人れるべきだと口を揃えて騒いでい る。
 特に驚いたのは日本カトリック司教団が発表した「戦後70年をへて、過去の戦争の記憶が遠いものとなるにつれ、日本が行った植民地支配や侵略戦争の中での人道に反する罪の歴史を書き換え、否定しようとする動きが顕著になってきてい ます」「日本の中でとくに深刻な問題は、 沖縄が今なお本土とは比較にならないほ ど多くの基地を押しつけられているばかりか、そこに沖縄県民の民意をまったく 無視して新基地建設が進められていると いうことです。ここに表れている軍備優 先・人間無視の姿勢は平和を築こうとする努力とは決して相容れません」という 文面である。
 なぜなら、政教分離は政治が宗教に関与し、利用することを良しとしないのと同様に、宗教が政治に関与し、しかも一方的な価値観であたかも世界に1億2000万人の日本を代表する教団の総意で あるかのように印象付けている。
 安倍首相の諮問機関「21世紀構想懇談会」の座長代理を勤める北岡伸一氏の発言にも落胆した。つまり、日本の社会に対して責任ある立場の人でさえも、今の中国の軍事力増強と経済力に伴う覇権行為がアジア全体でどれだけ深刻なものに なっているか全く認識していないか、ま たは対岸の火事として自分たちに及ばな いと思っているのだろうか。隣の韓国でさえ、済州島の住民が中国の経済侵略に抵抗する運動を起こしているし、韓国政府の中からも中国の露骨な内政干渉に抵 抗する動きがあり、ミャンマーでも主権 に干渉する中国に抗議している。
 リー・クアンユー元首相のシンガポ— ルでさえこの中国の脅威に対し、インド に積極的な関わりを求めている。これら の国々は現実を見据えて生きているが、 日本はどうだろうか。

※ 「VIEWPOINT MAY 2015」 掲載

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