« (262) 選挙について考える | トップページ | ダライ・ラマ法王の死を待つ中国 »

2016年6月25日 (土)

二つの軍事パレードが露呈する中国の矛盾

ラサと天安門広場

   現在中国政府が最も恐れているのは、 中国共産党政府の言う「3つの勢力」で あって、同政府が言う「アメリカ帝国主義の覇権」でもなければ「日本軍国主義の復活」でもない。中国政府の指導者達や公安関係者が国民に常に警戒を呼びか けている3つの勢力とは、①民族分裂 勢力(分離主義者)、②極端な宗教勢力 (極端なと言うのは国際世論を配慮しての策)、③暴力テロ (①、②の勢力と農 民、貧困層などの反発を弾圧するための 口実)の3つである。
 今回中国政府は大々的な「抗日反植民地主義.反帝国主義勝利70年」の式典を主催し、戦ったこともない戦に「共産党 が日本軍と戦って勝った」と国内外に宣伝した。約50か国の首脳に招待状を送ったが、結局参加したのはロシアのプーチ ン大統領、韓国の朴槿恵大統領、他盟友 のパキスタン、スーダンなどの他、上海 機構の"スタン"のつく国々だけで先進 国はほとんど政府代表レベルだけで、首相は参加しなかつた。習近平の目論見は 失敗に終わつたと言えるのではないだろうか。
 最近の中国の反日プロパガンダが激し かったにも関わらず、米国の民間調査機 関が、アジアを中心に調査を行ったところ 、八割の人々は依然として日本に 対して好感を持つていることガが明らかになつた。
    中国は他の国に対しては歴史を遡つて歪曲し、植民地主義、 帝国主義、軍国主義などのレッテルを貼つて非難する一方、自国による侵略行為は「解放」と 主張する。習近平は「歴史の歪 曲は許さない」と言っていたが、 歪曲しているのは中国政府であ る。
  今回の天安門広場での軍事パレ—ドで数多くの新型戦闘機や ミサイルなどの武器を自慢気に 公開し、中国の軍事力の優位生 を強調した。しかし、それらの 新型兵器の実際の機能について知っているのは中国の人民解放軍の関係者だけだ。
  1980年に当時の北京政府 の招待でダライ•ラマ法王のチベット実態調査団員の一員として筆者が北京滞在中、現地での軍事演習を見せてもらったことがある。人民解放軍の広報官に感想 を聞かれて、「映画の撮影場のオモチャ みたいです」と答えたら、自国の力を見 せつけたかった彼は顔色を変えて怒りを表した。中国政府としては私達に共産党指揮下の人民解放軍の圧倒的な力を見せることで、チベットが抵抗すれば木っ端 微塵に制裁すると間接的に示したかった のであろぅ。弾道ミサイルの射程距離が アメリカの内陸にまで至っていると言え ば、世界が怯えるとでも思っているのだ ろうか。
  中国政府は先月、「チベット問題に関 する工作会議」を開くと同時にチベットに関する白書を出した。白書には、中国 政府の下でいかにチベットが発展し人々が幸せになったかを強調するために捏造 されたデータが羅列されていた。かつて は「チベットは有史以来中国の一部であ る」と言い張っていたが、最近はさすがに少し控え目に「古代以来」と曖昧な表 現に変えている。
 しかし、北京政府の矛盾は明らかで、今年の9月8日、その古代以来中国の一 部であるはずのチベットで、共産党政治局常務委員会で4位の地位に当たる政治協商会議の主席は大団体を率いて首都ラサ へ行き、チべット自治区成立50周年の式 典を派手に行った。中共政府は「19 6 5 年のチベット自治区の成立は、チベットの歴史の新たな一ぺージを切り開いた。 40年来、中央政府と各地の大きな支持の下で、チベットは大きく変化した。今日のチベットは、政治が安定し、経済が発 展し、社会が安定し、民族が団結してい る」と述べている。
 実態は全てその反対で自治区とは名ば かりで、実情は自治を奪って一方的に中国に併合し、人権と民族自決権を奪ったに過ぎない。現に集会に駆り出された大 衆の中で、喜んで自発的に参加した人は ほとんどいない。政治が安定しているのなら24時間体制で、軍、武装警察、公安当局が厳重に目を光らせ、無数の監視カメラを設置する必要はないはずである。
 確かに以前よりはインフラが整備され 経済もある程度良くなったが、その恩恵 を一番受けているのは大量の中国人移民と公務員、そしてラサを中心に活躍している売春婦などで、一般のチベット人は そのおこぼれすらもらっていない。民族 の団結がないからこそ中国政府は、ダラ イ•ラマ法王が誠意を持って対話をし、中道路線で平和理に解決しようとする努 力を「分裂分子」と決めつけ、徹底的に戦うと言っているが、こうしたことは習近平態勢の矛盾を露呈しているとしか言 えない。法王の写真を寺、家庭、公の場 から排除し、代わりに今回のラサでの軍事パレードで毛沢東、鄧小平、江沢民、 胡錦濤、習近平の大きな肖像画を持って行進した。
 しかも、これらの血で手が染まった独裁者達の写真を、寺、寺院、教会(最近はキリスト教に対しても激しい弾圧を 行っている)に記念行事の贈呈品として 贈り、飾るように命じている。これは正に宗教弾圧で、それに抗議する140名 以上のチベット人がチベットの自由とダ ライ•ラマ法王の長寿と早期帰国を叫び、焼身行為で訴えている。
 中国の民族虐待、浄化、宗教弾圧に対する抵抗の方法は違っても、各民族、宗教信仰者、人権活動家たちが自分の価値や文化に従い、不退転の決意で抵抗している。その中で最近、多少注目浴びているのはウイグルである。
 195 5年にウイグル自治区が成立され、正式に中国の領土化された。以来チベット同様、ウイグルでは耐えがたい宗教弾圧、同化政策が実行されている。伝 統的な民族衣装を纏うことも許されず宗教的価値観に基づくウイグル人男性の風習である、髭を伸ばす自由まで奪っている。領土、家畜、財産など有形のものは 言うまでもなく、言語や信仰など無形の価値まで奪っている。危険極まる中国の核実験も、古代チベット領、現在のウイ グル自治区で行われており、しかも管理 制度はかなりずさんなものだと聞いている。
 2013年10月28日に中国共産党の心臟邰であるとされている天安門広場 で、ウイグル人一家の車が突入し自爆行為の爆破事件が起きたと報じられた。
 2014年3月に雲南省の昆明駅で無差別殺人事件が起きた際も、中国共産党政府はウイグル人の犯行と決めつけた。翌4月、習近平国家主席はウイグル 自治区を訪問し、現地の武装警察にウイ グル人の抵抗を徹底的に抑えるように要 求した。
  その直後、習近平国家主席がウイグルを出立した4月30日に、ウイグル自治区の首都ウルムチ駅で殺人・爆破事件が起きた。報道によると数人のウイグル人が 駅改札付近で刀を持って人々に切りつ け、身に着けていた爆弾を爆発させ、3 人が死亡し79名が重軽傷を負ったとの報 道があった。
 これらの事件全てが本当にウイグル人 の仕業だという確証はなく、中国当局の 自作自演だという説もある。また、今年 8月18日にバンコクで発生した爆弾事件に関して逮捕された人物像や、犯人とし て逮捕された人物の所持品検査などを証 拠としてウイグル人関与の可能性が高いと首う報道が流れているが、タイの治安当局は慎重な姿勢を示し、今のところはこのような断定を避けている。
 もちろん、いかなる非合法的な暴力も賞賛することは出来ないが、その行為だけを取り上げて批難し、そのような行動 に押しやっている要因を無視する事は不正、不公平であると言わざるを得ない。
 中国政府は信仰を圧殺し、無神論を押し付け、同化(漢化)政策を赤化(共産化) を強制している。1987年チベットで 大規模な決起デモが発生した時、当時の公安トップの立場にいた喬石•党政治局常務委員が指示した「主動的に攻撃し、多大な打撃を与え、現場で勝利する」という中国共産党の戦術を、当時チベットにおける共産党トップだつた胡錦濤が忠実に守り、無差別、無慈悲に殺戮を厳行 した。その政策と戦術は習近平も忠実に継承している。
 北京での「抗日勝利70周年記念行事」 と「チべット自治区成立50周年記念式 典」に共通していることは、自国の不正不当な行為を正当化し、21世紀の覇権主義国家としての中国の野望を明確化していることである。自由と民主主義を掲がる国々は、結束してこの脅威にどう対処するか真剣に考えるべきではないか。

※『 新政界往来』(2015年10月号)に掲載

|

« (262) 選挙について考える | トップページ | ダライ・ラマ法王の死を待つ中国 »

中国論」カテゴリの記事