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2016年8月15日 (月)

【インタビュー】日本は中国のチベット弾圧を直視せよ


ヒステリックに「戦争法案」を叫び平和を貪り続ける日本人こそ中国の植民地とされたチべツ卜民族の悲哀を理解すべきだ

─最近のチベットの状況は?

監視強化の中続く焼身抗議

ぺマ・ギャルポ(以下PG) 今年はチベット自治区ができてちょぅど50年だ。それで中国の警戒が強くなっている。軍の出入りが激しく、監視も強化され ている。しかし民衆は負けていない。焼身抗議は名前や年齢などがわかる人たちだけでも150人ほどになった。若い世代の人たちが街中で独立万歳を叫ぶ運動も見られる。
 中国当局による弾圧は相変わらず激しい。反政府的な人を見つけると逮捕・拘束され、裁判も行われない。最近では高僧のテンジン・デレク・リンポチェ氏(65歳)が7月12日に獄死した。チべッ卜人であれば知らない人はいないほどの方だった。しかし家族には遺体も返してくれない。よほどひどい拷問の痕があるのではないだろぅか。
 中国はチベット支配のために アメとムチを使い分ける。そのや り方は巧妙で、チベット人の中にも羽振りのよい人がいる。経済的に懐柔し、内部分裂を図っているのだ。
 チベット鉄道(青蔵鉄道)が2006年にできてから、チベットへの観光客が年間400万人に増えた。中国政府による奨励の効果もある。当初はチベット人も鉄道の開通を喜んだ。チベットは標高が高く (平均海抜3500m)、 新鮮な野菜などなかなか手に入らない。野菜をはじめ、多くの物資が増えて生活が豊かになるのではないかと考えたからだ。しかし実際は、チベット人の生活が豊かになることはなかった。儲かったのは中国人が経営するホテルだけ。観光客相手の売春まで中国人が取り仕切っている。
 実はチベット鉄道が開通されたのは、チベットに眠る豊富な地下資源を輪送するためだった。チベット開発は、2000年の全人 代(全国人民代表大会)で「西部大開発」が正式決定されてから本格的に始まった。ただし開発がチベット人のためになることは全 くない。採掘する権利はチべッ卜人には与えられず、中国人だけが行つている。「白昼堂々の盜み」とも言われている。炭鉱で慟くチベット人の事故も多い。
 観光客の増加、開発、資源の採掘によりチベットに漢民族がどんどん増えている。中国の対チべッ卜政策は、まず植民地化、そしてチベット文化を破壊して中国人に同化し、 最終的にはすベて中国人とする浄化政策へと進む。このやり方は全く変わっていない。

独立を分離運動として弾圧

─ダライ・ラマ法王の写真所持すら禁止されるなど迫害が一層厳しくなつていると聞く。

PG インドに亡命したダライ・ラマ法王によるチべッ卜亡命政府と、中国との対話は2012年以降完全に途絶えてしまった。法王は現在、チべッ卜の独立を中国政府に求めていない。中国が「独立」といぅ言葉さえ使わなければ、あらゆる対話に応じると言ったからだ。それで法王はチベット自治区を中国の一部と認め、「高度な自治」を要求することにした。しかし中国政府は 現在、その法王との対話に応じなくなった。対話のハ—ドルをどんどん上げているのだ。
 中国政府は法王の海外での活動を分離運動と決めつけ、批判している。海外の要人との謁見も極力実現できないように阻止して いる。この妨害活動に初めて屈したのが英国だった。1989年にノーベル平和賞を受賞した当時は世界中の首脳と会えたが、今は ほとんど会えていない。現在のローマ法王とも会っていない。
 ダライ・ラマ法王は1995年、6歳の少年をパンチェン・ラマ(ダライ・ラマに次ぐ高位の化身ラマ)の転生者として認めたが、 中国政府はこの少年を拘束し (当時7歳)、別の6歳の少年をパンチェン・ラマ11世として無理やり即位させた。7歳の少年にいったい何の罪があるといぅのか。

——習政権になってからのチベット政策は?

チベット人共産党員逮捕も

PG 8月25日、習近平国家主席はチべッ卜自治区50周年にあたり、北京で「分離主義を許さない」と演説した。これは明らかにダライ・ラマ法王に向けた言葉だ。習氏はさらに、「政府と国民はチベットの統一を監視すベ きだ」と強調した。
 昨年からは、チベット人の共産党員幹部らまでもが除名・逮捕されるようになった。最初の逮捕者は17人で、亡命政府とつながっているという罪状だった。その後もチベット人共産党幹部の逮捕が続いている。ニユースで報道されていない人も含めると数百人に上るのではないか。最近 私は、中国政府との対話による平和的な解決は無理なのではないかと強く思っている。

——安倍晋三首相の戦後70年談話が発表され、中国の報道官が非難したが。

PG 中国は総理の70年安倍談話に対し、「軍国主義の侵略の歴史を切断すべきだ」と非難した。しかし中国が日本を非難するいずれの内容も、実は中国がチベットやウイグルなどに対して今行っていることだ。世界はこのことをよく理解するべきだ。21世紀に入り、いまだに植民地支配を続けている国は世界の中で中国以外にない。人権弾圧ならあるだろぅが、植民地支配はない。

植民地支配国と戦った日本

 日本はアジアの国を軍国主義によって支配したといぅが、実際にアジアで日本と戦った国はない。当時のアジアはほとんどが欧米の植民地だった。
 例えば日本がフイリピンで戦ったのは、当時のフイリピンを植民地支配していたアメリカ軍だった。インドネシアにおいてはオ ランダ軍と戦ったし、ミャンマ— ではイギリス軍と戦った。これらの地域では真の愛国者は日本と共に植民地支配国と戦った。
この事実は日本でもあまり知られていない。

——中国は今後、どういう方向に進むのか。

独立運動を離間戦術で阻止

PG 株の暴落など、経済的な危機を煽るような報道が多い。しかし中国は大国であり、そう簡単に崩壊することはないだろう。むしろ1980年代に制定された軍の近代化計画に基づき、着実に軍事覇権を拡大している。そこを注意すべきである。
 中国の戦略を見るときにニつの点を見落としてはならない。
 第一に、中国は毛沢東以来の世界制覇の野望を持ち続けているということだ。たとえ一時的に友好的な態度をとったとしても、その本質は全く変わっていない。
 習氏は就任してから「大中華民族の夢」という言葉を繰り返し使っている。これは中国が歴史的に最も広い領土をもっていた時代を取り戻すという意味だ。
 チベット、ウイグルもしかり、ベトナム、台湾、そして尖閣諸島や沖縄までもこの範囲に組み込まれている。中国の軍事、経 済、政治はそれぞれ独立して存在しているのではない。この目的のために用いられるあらゆる手段の一つに過ぎない。
 第二には、中国の伝統的な兵法の一つである「離間」である。離間とは、仲間を仲たがいさせる心理戦を仕掛けることであり、 敵を内部から崩し、漁夫の利を得ようとする作戦である。この作戦にはさほど金もかからないし、軍を出す必要もない。しかし相手を弱体化させるには効果が高い。小説の『三国志」にもたびたび登場する歴史的な作戦で、中国はこれを最大限利用している。

中国の「戦争」は始まっている

 チベットやウイグル、モンゴルの独立運動も、この離間を使って弱体化されている。チベット人同士を仲違いさせるために、チベットを支援する外国人までも巧みに使う。この結果、内部が分裂してしまう。
 具体的には、最近はインターネットで内部の悪い噂を流すことが多い。昔は口伝え、チラシなどを使ったが、最近ではネッ卜を駆使している。中国のネッ卜戦略はかなりの規模だ。中国当局を批判したり、民主主義や人権、民族の自決を訴えるものはすぐに削除される。この組織力が独立運動の内部分裂のためにも使われている。
 日本に対しては、いわゆる従軍慰安婦問題や南京大虐殺などをでっちあげ、国際社会から孤立するよう仕向けている。アジア諸国では、日本がアジアのリーダーとなることが期待しているが、それに水を差しているのだ。「日本の安倍総理は極右である」「軍国主義化するつもりだ」と宣伝している。明らかに心理戦である。
 中国による戦争はすでに始まっていると言えるのではないか。直接ミサイルが飛んできたわけではないが(ミサイルをいつでも飛ばせる状態にはあるが)、軍事力は実効支配の最終手段として最後のほんの少しの間だけ使えばよい。中国では戦争の大半は心理戦だ。そう考えれば、中国との戦争はすでに始まっている。このことに対する日本の認識は極めて薄い。

世界の変化を解さぬ日本人

─日本人は平和ボケしているとよく言われる。

PG 私はこれまで60数年生きてきたが、そのうち50年間は中国の弾圧と戦ってきた。その私から言わせれば、日本人は世界が変化しているということをほ んど認識できていない。これはとても残念なことだ。
 先日、安倍総理に対して日本の僧侶が「戦争するな」と批判する広告を出した。日本さえ安保法制を作らなければ戦争は起きな いというのだ。戦争は、戦争をしてくる相手がいるからこそ起きる。日本の周辺にはその相手が実際にいるといぅことを忘れている。日本はこれまで長い間平和だったので、幻想の世界にいるのではないか。「戦争をするな」と言いながら、その運動が戦争を引き起こすことが見えていない。
 日本国憲法は1947年に施行された。その当時、アジアにはいくつの国があったのか。その後に独立した国がかなり多い。
 当時の中国にはチベットもウィグルも入っていなかった。領土としては現在の4割程度でしかなかった。中国が現在の範囲になったのは1950年以降のことだ。日本は憲法が制定されて以降、戦争もなく、ほとんど変化はなかったかもしれないが、 世界は大きく変わった。アジアも変わった。日本人はこのことを知るべきだ。

衆院憲法調査会で意見陳述

——ぺマ先生は2004年、衆院憲法調査会の公聴会で意見陳述を行った。

PG 日本には憲法9条があるから平和を維持できたという意見がある。これは大きな勘違いだ。憲法ができた当時、日本の周辺には戦争を仕掛けようという野望を持った国は存在しなかった。ところが1949年に中国が建国し、状況は変わった。ただし当時の中国は、国内の状況を安定させるので精一杯だった。文化大革命では多くの中国人が餓死した。だから戦争をして領土を拡張しようという余裕も能力もなかった。しかしその中国が今や世界第2位の経済大国となった。アメリカの軍事力に対しても、対等ではないにしても空白を作れば入り込むほどの実力をもつようになった。米軍が撤退した南シナ海では、フィリピンやべ卜ナムの領域を実効支配してしまっている。
 日本の周辺には、日本に対して決して友好的ではなく、100万人以上の軍隊を持ち、かつ民主主義の制度も確立していない国が存在する。核兵器もある。日本人が憲法9条を毎日拝んでも、こうした事実は変わらない。

——日本に対してメッセ—ジがあればお願いします。

PG 私は日本に来て、自由がいかに貴重かということを肌身にしみて実感した。しかし日本の中に、 自由社会=経済的自由とだけ考える人がいる。しかし無秩序の自由、傲慢な自由になれば、必ず社会に副作用が生まれる。

共産主義のゾンビ性に注意

 共産主義の歴史を見ると、冷戦で一度は崩壊したように見えたが、中国が防波堤となり、共産主義は残ってしまった。本当は当時とどめを刺しておくべきだった。民主世界が安心したり、 傲慢になったりすると、共産主義がゾンビのように再びよみがえる可能性がある。
 それを考えると、日本でも注意が必要だ。これ以上経済的な格差が広がると、マルクス・レーニン主義的な思想に共鳴する人が出てくるかもしれない。家庭の経済的事情で学校に満足に通えない人もいる。早く手を打たないと、日本が共産化されてしまうのではないか。彼らはかって「革命」を唱えたが’、今は 「人権」を叫んでいる。
 17世紀から20世紀まで、植民地支配は「世界の常識」だった。植民地をもった国は自ら帝国を名乗った。今では誰も「帝国」 を肯定する人はいない。
 しかし、似たようなことが経済の世界では起こっている。「グローバリゼーション」という言葉があるが、経済界におけるグロ—バリゼーションは大抵、弱者に対して残酷だ。
 そのおかげで日本の伝統的な家庭や地域のつながりが失われた側面もある。これは重要な問題だ。日本の良き伝統・文化を失わず、真のアジアのリーダーとなるためにも、日本はもっと良識的な動きを模索する必要があるのではないか。

※『世界思想』(2015年10月号)に掲載

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