心と体

2009年12月23日 (水)

薬師寺21世紀まほろば塾 「仙台」 

安田暎胤塾長 対談 ペマ・ギャルポ教授

 現代人の生き方を考える講座「薬師寺21世紀まほろば塾」(法相宗大本山薬師寺、読売新聞社主催)の仙台塾が11月22日、仙台市青葉区の市青年文化センターで開かれた。8月に就任した山田法胤(ほういん)・薬師寺管主の法話の後、末期がん患者を専門に往診する医師の岡部健さんが、「生きて行く事、死んで行く事−緩和ケアの立場から」と題して講演し、人の死と向き合うことの大切さを訴えた。塾長の安田暎胤(えいいん)・同寺長老は、チベット出身で桐蔭横浜大教授のペマ・ギャルポさんを招いて「おかげさまの心」をテーマに対談し、約300人が聞き入った。

世界に誇れる「おかげさま」

幸せへつながる言葉 戦後復興支えた精神

 安田 ペマ・ギャルポさんには、今の日本人が日常気づかない日本の良さを指摘してほしいと思います。その前に自身の生い立ちを聞かせてください。

 ギャルポ 5、6歳の頃までは何不自由ない暮らしでしたが、ある日突然、難民になり、同胞200人とチベットを出ました。途中で同胞が死んだりはぐれたりして、インドに着いたのは20人ほどでしたが、私はその後、難民キャンプの学校で英語を学び、1965年に来日しました。すべてが無常だ、と身をもって体験した56年です。チベットで生を受け、インドで救われ、日本で育まれ、多くの人のおかげで、今を生きています。

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 安田 日本語を勉強する中で、出会ったのが「おかげさま」の心ですね。

 ギャルポ 来日当時、日本人は「お元気ですか」「商売はどうです」と尋ねられると、「おかげさまで」とあいさつしていました。相手に感謝し、助け合う気持ちが日本を敗戦から立ち直らせ、世界に貢献できる経済大国に発展させた理由だと思います。「おかげさま」は、世界に発信できる一番大事な言葉です。

 安田 世界一の長寿国になってもまだ、多くの人が幸せを探しあぐねている。今日、この場でみなさんにお会いできるのも、元気だから来られたのです。「おかげさま」と考えることが幸せにつながるのではないでしょうか。

 ギャルポ 70〜80年代の日本人は謙虚で、権利を要求するよりも、国民としての義務を果たしていた。貧富の差も小さく、みんなが中流と思える社会でした。それを支えたのが「おかげさま」ですね。

 安田 ギャルポさんは、ほかにも日本の良い点を発見されていますね。

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 ギャルポ 年功序列や企業の終身雇用はいい文化です。日本の社会には年長者を尊敬する気持ちがあった。会社と社員は運命共同体で、会社は社員教育を充実させ、それが会社のためになった。しかし、90年頃から公共心や秩序などを自ら壊し始めました。「他人に迷惑をかけない」という言葉を大事にしてほしい。

 安田 早めに軌道修正が必要ですね。4年前、イランを訪れた時、イスラム教の「諸悪の根源は自己中心的欲望にある」との教えに、仏教との共通性を感じました。世界の宗教者と平和について意見を交わすと、素直に話せば、理解し合えることが多い。

 ギャルポ (テーブルの花を指さし)この花たちも、いろいろな品種があって美しい。それぞれの民族の価値観や文化、それを伝える言葉を維持していくことが重要です。

 安田 私は野球が好きで、東北楽天と巨人を応援していますが、日本の選手がヒーローインタビューで「自分一人の力ではない。応援してくれるファンや指導者のおかげだ」と答えるのが素晴らしい。自分の努力は必要だが、周囲に感謝する謙虚さの中に、美しい人柄が出る。これからも日本人が互いに努力し、素晴らしい文化を取り戻すことを願っています。

 ギャルポ 来日したばかりの頃、風邪で学校を休むと、同級生の母親が卵酒を持ってきてくれました。しかし、最近は、他人への関心が薄れ、隣の部屋の住人が死んでいても気づかなくなっている。自分の周りに、社会に、もっと関心を持ってほしいですね。

 

※『読売新聞社』(読売新聞/夕刊 2009年12月10日付より転載)

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